「保守的な日本でもMeTooか」財務次官セクハラ辞任、厳しい目を向ける海外メディア

Photo by Simon Launay on Unsplash

 財務省の福田事務次官が、女性記者へのセクハラ発言疑惑で辞任した一件が、海外で注目されている。これまで日本ではセクハラに声を上げる女性は少なく、#MeTooムーブメントもほとんど盛り上がらなかっただけに、ついにこのできごとをきっかけに変化が訪れたと見られているようだ。「セクハラは耐えるもの」としてきた日本社会に厳しい目が向けられている。

◆日本だけ不発だった。今#MeTooが始まる兆し
 海外各メディアは、日本のトップ官僚がセクハラ疑惑で辞任したと大々的に報じている。福田氏がセクハラ自体を否定し、「この状況では仕事ができないから」、「財務省を助けるため」などを辞任の理由としたことを伝えているが、ここまで追い込まれたことが、日本ではまれな#MeTooケースだと、フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は指摘している。

 BBCは、「保守的な社会の日本では、世界的な#MeTooムーブメントへの参加は、これまでゆっくりとしたものだった」と述べ、この事件でやっと日本でも火が付いたと見ているようだ。ニューヨーク・タイムズ紙も、日本が国際的な#MeTooムーブメントに仲間入りするかもしれない小さな兆しではないかとしている。

◆セクハラは我慢。女性に厳しい日本社会
 このセクハラ疑惑を報じた週刊新潮によれば、福田次官は「抱きしめていい?」、「胸触っていい?」などと複数の女性記者に尋ねていたという。福田氏の辞任が発表された後、日本新聞労働組合連合は、多くの女性記者が「取材先と自社との関係悪化を恐れ、セクハラ発言を受け流したり、腰や肩に回された手を黙って本人の膝に戻したりすることを余儀なくされてきた」と声明を出し、女性が我慢しなければならない状況を批判している。

 しかし、こういった状況は一般の職場でも同様であることが、厚労省所管の労働政策研究・研修機構が2016年に発表した調査でもわかっている。約9600人の働く女性を対象に行ったこの調査では、28.7%がセクハラを経験していた。内容別に見ると、「容姿や年齢、身体的特徴について話題にされた」が53.9%、「不必要に体を触られた」が40.1%、「性的な話や質問をされた」が38.2%となっている。セクハラに対して取った対応は、「がまんした、特に何もしなかった」が63.4%と最も多く、「同僚に相談した」が14.4%、「上司に相談した」が10.4%で、「加害者に抗議した」は10.2%だった。

 ウェブ誌『クオーツ』は、#MeTooが日本で遅々として進まなかったのは、暴力やレイプという面倒な経験は、女性が我慢することが期待されるのと、世界の先進国でも最低レベルの男女間の不平等が原因だと述べる。同誌は、「日本では被害者叩きもよくあるが、日本女性は小さなころから他人の意志に従えと教えられ、声を上げることをためらう」という、ジェンダー論を専門とする大阪大学の牟田和恵教授が毎日新聞に語ったコメントを紹介している。

◆韓国では#MeToo爆発。安倍首相のサポートは?
 さらに海外メディアは、お隣の韓国と日本の差にも言及している。韓国では日本と同様、女性に対する差別が根強いが、#MeTooに勇気づけられた韓国人女性たちのセクハラに対する告発は、期待の人気政治家や著名な芸術家たちをも失脚させるという結果を生んだ。文在寅(ムン・ジェイン)大統領も#MeTooへのサポートを誓っている(クオーツ)。

 一方日本では、セクハラを受けた女性記者が上司に事情を報告していたにもかかわらず、所属するテレビ朝日が適切な対応をしなかったばかりか、週刊誌にネタを持ち込んだ女性記者側の社員としての行いを問題視したとFTは述べる。そしてこういった局側のスタンスが、日本でセクハラ事件がほとんど注目を浴びない訳を示しているとしている。

 さらに、ウーマノミクスで女性の社会進出を後押しするはずの安倍首相も、#MeTooへのコミットメントは示していないとクオーツは述べる。もっとも、スキャンダルによる支持率低下で行き詰っていることから、セクハラや男女差別に対する考えの見直しを図るかもしれないと同誌は見ている。

Text by 山川 真智子