インドでの子どものレイプや殺害、宗教対立で泥沼化

Altaf Qadri / AP Photo

 わずか8歳の少女は寒い1月のある日、ヒマラヤ山麓の森で自宅のポニーを放し飼いにしていたところを誘拐された。その1か月後、レイプされバラバラにされた遺体が林の中で発見された。

 2012年に首都デリーの中心部で、横暴な男たちが若い女性をレイプする事件が発生したときには、何万もの人々が街頭に繰り出し、性犯罪の厳罰化を訴えた。

 しかし、インドが実効支配するカシミール地方でイスラム教徒の少女が集団レイプ、暴行、殺害された今回の事件では、まったく別の抗議運動が起きた。政権与党と関わりを持つヒンドゥー過激派のメンバーたちは、ヒンドゥー寺院で少女を何度もレイプして殺害したとして告訴された6人の男の釈放を求めてデモ行進したのだ。2人の警官を含む男性は無実だとして、数百人ものヒンドゥーの弁護士たちが抗議した。

                                                                                                                 

 襲撃されたその少女は、大きな目をした笑顔の優しい子で、名前をアシファといった。AP通信社では性暴力の被害者名を公表しないのが通例だが、アシファという個人名は、インドのメディアで広く報じられている。

 人口13億人、国としては無宗教のインドでは、少数派のイスラム教徒と多数派のヒンドゥー教徒の間の格差がつねに存在している。1947年に英国からの独立を果たしてから数十年、インドでは暴力事件が散発的に発生し、血なまぐさい宗教対立が引き起こされてきた。それは、この亜大陸がヒンドゥー系のインドとイスラム系のパキスタンに分割されたことによる。

 ただ多くの場合、ヒンドゥーとイスラムの人々の間の日常のやり取りは、概ね平和裏に行われてきた。穏やかな情勢が対立へと変化したのは、2014年にヒンドゥー至上主義政党のインド人民党(BJP)が総選挙で圧勝して政権の座についてからだ。ヒンドゥー過激派集団による暴力行為が増えていくにつれて、宗教的な少数派、とりわけ人口の13%しかいないイスラム教徒は、次第に疎外感を味わうようになっていた。

 少女の襲撃がジャンムー・カシミール州にある小さな町カトゥアで起きたのはそのためだ。警察によると、この事件は、イスラム系遊牧民コミュニティのバカルウォールズを脅して付近から追い出す目的で1か月前から計画されていた。

main

少女の襲撃事件が起きたジャンムー・カシミール州にある小さな町カトゥア(Channi Anand / AP Photo)

 土地をめぐっては、イスラム系遊牧民と地元のヒンドゥーとの間で争いが絶えなかった。遊牧民が自分たちの土地に侵入してきたと、ヒンドゥーは主張。遊牧民の少女がヒンドゥーの男たちに嫌がらせを受けたことで騒動も起きている。

 カシミール地方には、バカルウォールズを含めて100万人を超える遊牧民がいる。たいてい、羊、山羊、馬の群れを連れている。何世紀にもわたって、夏になると高地にある牧草地や森に移住し、冬がくればジャンムーの平地に戻り、仮住まいしながら家畜を養ってきた。

 しかしこの20年ほど、森の中に家を建てて定住する人も現れるようになり、土着の住民と争いが起きていた。

 カトゥア近郊では「これまでもイスラムの人たちと一部のヒンドゥーの間で緊張が高まっていました」と話すのは、インドの遊牧民を研究している非営利団体Jammu-Kashmir Tribal Foundation(ジャンムー・カシミール部族基金)を運営するジャベイド・ラヒ(Javaid Rahi)氏だ。

「BJPが政権を取ってから危機的な状況がますますひどくなり、ジャンムーに住む一部の狂信的なヒンドゥーの集団が雰囲気を悪くしています」。

 警察によると、アシファ事件の根源には宗教問題があり、地元に住む男たちはただ少女を誘拐することでバカルウォールズに恐怖を与えようとした。しかし少女を手に入れた彼らは、当初の目的をすぐに忘れてしまった。法廷での報告によると、少女は抗不安剤で意識朦朧とさせられて何度もレイプされた挙句、火あぶりにされ、岩石で殴られ、絞殺されたという。最後は森に放置され、その1週間後に発見された。

 2012年にニューデリーで起きた集団レイプ事件の時には、蔓延していた性的暴行に対してインドの人々が厳しい視線を投げかけ、動きの鈍かった警察や政治家に暴力と真剣に向き合うよう圧力をかけた。しかし今回のカシミール事件では、この4年間に起きていた険悪な宗教対立の中で膠着状態が続いている。

 容疑者が逮捕されてまもなく、過激派のHindu Ekta Manch(ヒンドゥー統一プラットフォーム)のメンバーは、カシミール南部最大の都市ジャンムーの通りを練り歩いた。そこでインドの大きな国旗を振り、「インド万歳!」と叫び、警察に仲間の釈放を訴えた。その集団は与党BJPとつながりがあり、同党所属の2人の議員は被告訴人を公に擁護した。

 カトゥア在住のヒンドゥーの弁護士は9日、警察が地方裁判所で捜査報告をするのを阻止しようとした。警察の捜査には瑕疵があり、襲撃したとして告訴されている6人のヒンドゥーは冤罪だと主張している。

 そのため警察は、地元の裁判所に報告を提出する前に、捜査の裏付けを取るよう要請された。

 2人の警官を含む6人の男たちは、少女の襲撃に直接関与したとして告訴されている。うち1人の警官は、少女の捜索任務にあたっていたとされる。他にも証拠隠滅罪で2人の警官が逮捕された。

 この事件に対しては、国中から厳しい反応が寄せられている。

「宗教的な偏見から起きた性暴力に対して強硬な姿勢で臨まないようにしているBJP支持者があまりにも多くいるようです。少女のレイプと殺害は、その地域からイスラムのコミュニティを一掃しようとする運動の一部だと警察は主張しています。さらに、現地の弁護士や他のBJP支援者にとって、ヒンドゥーの容疑者とイスラムの被害者という構図は、起訴をしない理由になっているのです」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチは11日の声明で述べた。

 子どものレイプと殺害という今回の政治的事件は、この地域に住む多くのヒンドゥーの感情も逆なでしている。

「政治問題は脇に置くとして、一部の人たちがこのおぞましい犯罪を宗教の色眼鏡を通して眺め、何かを得ようとしているのは恐ろしい話です。過去にない最悪の事態です。今後、さらに酷いことになっていくのか、私にはわかりません」と、ジャンムーに住む元教師のギルダリ・ラルさんは話している。

By AIJAZ HUSSAIN and MUNEEZA NAQVI, Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP

Recommends