大手ブランドがストリート・アートを盗用するのは情けない 違法なグラフィティでも著作権で保護されるべき理由

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著:Enrico Bonadioロンドン大学シティ校、Senior Lecturer in Law)

 ストリート・アーティストであるジェイソン「レヴォク」ウィリアムズ氏が、自身のトレードマークである山形模様をブルックリンのハンドボール・コートにスプレー塗料で描いた時、まさか自分が著作権の侵害問題で大手ファッション企業との法廷論争に巻き込まれることになろうとは予想だにしなかったことだろう。

 しかし、2018年1月、実際にこの論争が起きた。スウェーデンの大手ファッション小売企業であるH&Mは、ウィリアムズ氏によるクレームを拒絶し、彼の作品を「蛮行」と称した上で、ウィリアムズ氏を報復提訴して全面的に争う姿勢を明らかにした。そして、一連の紆余曲折の中で興味深い問題が浮き彫りになった。3月15日、H&Mは同社の取った措置に反発する意見に従い、「訴訟を取り下げる」とツイッター上で表明した。しかし、そのツイートにも関わらず、ウィリアムズ氏の弁護人はH&Mがその訴訟を取り下げていないことを確認した。この進行中の騒動は興味深い議論を呼んでいる。非合法に描かれたグラフィティは著作権で保護されるべきなのか?そして、アーティストは大企業がこのような方法で実施している作品の不正利用を止めさせることができるのか?

 本件は、ウィリアムズ氏の弁護人がウィリアムズ氏による作品のひとつを画像や動画に取り入れて展開しようとしたH&Mのスポーツウエア商品であるNew Routineの販売促進キャンペーン広告の差し止めを求め、知的財産侵害行為の停止通告書を発行したことに端を発する。このキャンペーンでは、ハンドボール・コートに描かれたレヴォクのアートワークの前でポーズをとるモデルが登場した。ウィリアムズ氏は、本件は著作権侵害、不公平な競争と過失の事例であり、さらにH&Mブランドと関連づけられたことによって風評被害を被った、と主張した。

ファッションは前例に倣う
 レヴォクが大手ファッションブランドを相手に訴訟を起こしたのはこれが初めてではない。2014年、レヴォクは、仲間のグラフィティ・アーティストであるレイエスとスティールとともに、イタリアのファッションブランド、ロベルト・カヴァリに対しサンフランシスコで制作した作品の著作権侵害訴訟を起こした。この訴訟は後に法廷外で和解した

 今回の訴訟では、H&Mは、ウィリアムズ氏のグラフィティは許可なく違法に制作されたものなので著作権が及ぶものではなく、同社が自由に利用して良い、との解釈を主張して反論を展開している。そしてH&Mは、アーティストにロイヤリティを支払うことなく販促キャンペーンでストリート・アートを使う許可を求めて訴状を提出した。

 言い換えれば、H&Mは「違法な落書きは破壊行為であり、不法侵入に当たる。だから、目的を問わず、誰でもその落書きを利用して良いはずだ」と主張したことになる。さらに同社は、この動画は制作会社に委託して制作したもので、その制作会社がニューヨーク市公園パトロール(NYCDP)にアートワークは無許可で制作されたものであり、公共の不動産の汚損行為に相当することを確認していた、と主張した。

 アメリカでは、建物の壁面などの物理的な媒体に固定できるオリジナルな著作物であれば、著作権の保護を受ける対象である、と定めている。今回のケースで、レヴォクが壁面に描いたアートワークがこの要件を満たすことに疑いの余地は無い。

 違法に制作されたアートワークが著作権の保護対象となるか否かは依然、法の判断が分かれるところだ。これはアメリカだけではなく、イギリスや他国でも同じ状況だ。私は、今回のケースは、この状況と判断を明確化する良い機会となる、と考えている。もしこの争議が解決されなければ、司法は、たとえ認可されていないオリジナル作品であっても、正当で法的強制力のある著作権によって保護の対象となる、という判断を明確に打ち出す必要がある。

 H&Mが採用した被告弁護人は、違法に描かれたストリート・アートを流用して利益を得た、と裁判で告発された被告に人気が高い。例えば、グラフィティ・アーティストのライムが著作権侵害訴訟を起こした際、被告となったイタリアのファッションブランド、モスキーノがこの弁護人を起用した。ライムことジョセフ・ティアニー氏は、自身がデトロイトで描いたヴァンダル・アイズという壁画作品の多数の要素が、人気歌手ケイティ・ペリーが2015年に着用したモスキーノのドレスの絵柄に無断で盗用された、と主張した。

著作権と不正行為の関係
 H&Mは、いわゆる「クリーンハンズの原則」を持ち出した。つまり、原告が倫理に反し、違法に、または、悪意を持って行動した場合は、司法判断による救済や利益などの法的な助力を得ることは許されない、という被告側の主張だ。

 私はこの原則をあまり好ましく思っていない。特に、無認可で制作されたアートに適用することには疑問を感じずにはいられない。ストリート・アートの不正流用に関するケースに適用するのが不適切な理由は、アーティストが犯した違法行為と、これらの争議で得られるメリット、すなわち、他方の当事者が商用で作品を搾取することとの関連が欠如していることである。言い換えれば、アーティストの犯した違法行為は、アートワークを不正流用した法人に対し何ひとつ悪影響を及ぼさない。

 アートが制作された方法(合法的にせよ非合法にせよ)は、著作権に関わる問題に影響を与えるべきではない。もし私がペンを盗み、そのペンを使って一品の素晴らしいアートを描いても、私は自分の著作権を主張したり行使したりする権利を否定され、誰か他人が私のアートを勝手に模倣して金儲けに興じることを黙って指をくわえて見ていなければならないのだろうか? 非合法に制作されたアートである、というだけの理由で、他者が商業的な利益をもくろんでそのアートを模倣し、勝手に流用するのを許容する、というのは、不公平以外のなにものでもない。

 非合法なグラフィティに対し著作権を認めないのは、その不適切な流用を許容し合法化するだろうが、アートの創造に対しては何の効果もない。今回のH&Mが取った行動をアーティストの権利に対する挑戦であると捉え、一部のストリート・アートのコミュニティが強い憤懣の念を抱くのも実に無理からぬことだ。

 ストリート・アーティストが非合法に制作した作品に対し、著作権の主張や行使権を提供することは無駄である、とも考えられる。多くのアーティストは、法的な措置を講ずるのは危険であると判断することだろう。なぜならば、自分の身元を明らかにせざるを得ず、刑務所への収監を含めて、重大な司法の判断に自らを委ねることになるからだ。今回の係争でH&Mが主張するように、ウィリアムズ氏はそのグラフィティを壁に描く許可を得ていなかった、と判断された場合、同氏はそういった状況に直面する可能性がある。

 アートワークが制作されてからかなりの年月が経過した後で、そのアートを流用した者に対して著作権訴訟を起こせば、そういった危険性はとても小さくなるだろう。他の違反や犯罪同様に、落書きにも時効があるからだ。このような状況下であれば、アーティストやその相続人でさえ、他人の創造性に図々しく胡坐をかいて利益を得ようとする大企業を相手に裁判を起こすことが可能だ。

 結局、創造性に対してはいかなる場合も違法性を問われるべきではない。しかし、その盗用は違法とされるべきである。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by ka28310 via Conyac

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