ドイツでベビーブーム、出生率が43年ぶりの高水準に 3つの要因とは?

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 低い出生率が長らく悩みの種だったドイツだが、2016年の出生率は1.59となり、1973年以来最高レベルの数字となった。背景にあるのは移民の増加だが、政府の家族政策や好調なドイツ経済も出生率アップに貢献したと見られている。

◆ベビーブームに貢献。非ドイツ人女性の出産大幅アップ
 ドイツ連邦統計局によれば、2016年のドイツの出生数は79万2131人となり、2015年から7%増加した。出生率も前年の1.5から1.59まで上昇し、この43年間で最高の数字となっている。

 2015年だけで89万人の亡命者を引き受けた難民危機も含め、ドイツでは移民が増加しており、これがベビーブームに貢献したと政治誌ポリティコ欧州版は説明する。ドイツ市民が産んだ子供の数は、2016年には3%の増加だったが、非ドイツ人女性が産んだ子供の数は、2015年から25%増となっている。伝統的に高出生率の国から来た女性の数が増えていることを連邦統計局は指摘している。

◆実を結んだ家族政策。好況感も手伝い30代の出産も増加
 人口減に対処するため、ドイツはこの10年間に多くの家族政策を導入してきた。例えば育児休暇中、男親、女親を問わずこれまでの給与の3分の2が最初の1年間支払われ、両親が2人同時に育休を取った場合は、さらに2ヶ月間支給が延長されるという、スウェーデンを参考にした制度が採用された。ストックホルム大学のLivia Olah氏は、育児の分担をする両親にとってはより柔軟な制度だと述べ、子供を持つか、さらに2人目を持つかの決め手となると説明している(ドイチェ・ヴェレ(DW))。

 ただし、経済的インセンティブだけが出産を促したのではない、とマックス・プランク人口研究所のSebastian Klusener氏は指摘する。実は新育休制度が発足した最初の数年間は、育休明けに託児所が見つからないという問題が多発し、結局どちらかの親が仕事を辞めざるをえないという事態が起きたという。現在は、状況は大幅に改善しており、これが出生率にポジティブな影響を与えたのは確実だと同氏は見ている(同上)。

 ロイターは、ドイツ経済の拡大も貢献したとしている。マーケティング・リサーチ企業、GfKのRolf Buerkl氏は、ドイツ経済は現在アクセル全開で健全に回っており、特に雇用状況が良好なことが、消費者心理を楽観的なものにしていると述べている。連邦統計局によれば、好ましい経済状況に家族政策が合わさったことで、若い時に子供を作らなかった現在30~37歳の女性たちも出産に前向きになっているということだ。

◆焼け石に水?出生数増加も、人口安定には遠い道のり
 もっとも、出生率向上への障害も残っているとDWは述べる。ドイツでは長年にわたり、女性が子供を持つことはキャリアの終わりと見られてきたという。法律上は、女性はパートタイムで働いていても、育児手当を受け取ることができるが、労働市場は融通が利かず、多くの雇用者は今でもパートや在宅の勤務の可能性を否定する。結果として、そういった仕事はスキルが必要ない低賃金なものになってしまうという。

 前出のOlah氏は、現実には在宅やフレックスタイムでできる仕事はたくさんあるのだから、凝り固まったこれまでのやり方を守る必要はないと述べる。働き方の選択肢を増やすことで生産性はむしろ高まるとし、家族にやさしいアプローチを雇用者側も取るべきだとしている。

 ドイツの出生率は上がったとはいえ、EU平均の1.60を下回っており、人口規模を安定させるには2.1まで高める必要があると専門家は指摘している。昨年の連邦統計局の発表によれば、2016年に死亡した人は91万1000人で、出生数を大幅に上回っている。これはここ数十年の傾向だとポリティコは指摘しており、長期的に人口が減少するという懸念は、ささやかな出生率アップではなくならないようだ。

Text by 山川 真智子