避難指示は適切だったのか? 震災から7年、海外メディアの視点

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 東日本大震災から7年が経過した。原発事故が起こった福島県では、ピーク時で16万人以上の人々が県内外に避難した。避難は住民を守るためのものだったが、避難先でのストレスなどが原因の震災関連死で多くの人々が亡くなっており、その妥当性を問う声も聞かれる。現在政府は段階的に避難指示を解除し、避難者に帰還を促しているが、多くは帰れない事情を抱えていることも指摘されている。

◆震災関連死が主な死因。避難は適切ではなかった?
 復興庁によれば、今年2月の時点で福島から県外に避難している人は約3万4000人いる。多くが原発事故が原因で避難を決めた、または避難せざるを得なかった人々だ。政府による避難勧告は、放射能による健康被害から住民を守るためだったが、フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、避難は間違った判断だったという専門家の意見を紹介している。

 ブリストル大学の危機管理学教授、フィリップ・トマス氏は、あれだけの事故で全く避難しないというのは信じがたいものの、数年にわたる避難は必要なかったのではないかとしている。避難によるストレス、医療の中断、自殺などの震災関連死で亡くなった人は、復興庁によれば2202人だが、原発からの放射能に関連した癌による死亡は、これまで1件も確認されていないからだ(FT)。

 汚染された場所に住み続ける不安はあるが、国連のデータを用いたトマス氏の算定では、避難したことで伸びた避難者の寿命は、最も原発事故の影響を受けた富岡町で平均82日、大熊町で69日、双葉町で49日となっており、楢葉町ではわずか2日だった。より放射能に敏感でこの先の人生が長い若者であれば避難は理解できるが、震災関連死のうち1984人が65歳以上だったことから考えても、お年寄りを慣れない場所に避難させたことは不要だった、とFTは見ている。

◆もう帰れない。個々の事情と政府への不信感
 もっとも、避難してしまった人々の気持ちは複雑だ。政府は段階的に避難指示を解除し、住民の帰還を促しているが、それを望まない避難者も多くいる。ガーディアン紙は大熊町を取材し、避難した地ですでに生活が安定したこと、津波の経験がトラウマとなって帰還を怖がる子供達がいること、住んでいた土地の一部が、汚染された廃棄物の中間貯蔵施設の区画に入ってしまったことなど、それぞれに帰れない事情があると説明している。

 避難民の中には、自主避難で他地域に移った人々もいる。福島県の調査では80%の自主避難者が帰りたくないと回答しており、クリスチャン・サイエンス・モニター紙(CSM)は、政府の安全だという情報に不信感を持つ人々も多いと指摘している。自主避難者に対しては、福島県から住宅の無償提供が行われてきたが、2017年3月で打ち切りとなった。立ち退きを拒否する避難者を住宅提供側の独立行政法人が訴えており、事態は複雑化している。

 トマス氏は、避難者への補償は7兆9000億円と見られ、これに健康被害なども加えれば数倍になるとし、純粋に経済的なコストと利益を計算した場合、避難の価値はないとしている(FT)。

◆明確な避難の条件を。福島から学ぶ教訓
 避難はしなくてもよかったという意見に対し、相馬中央病院の越智小枝医師は、人々の恐怖や、食料や燃料が調達できなかったという当時の状況を考えれば仕方なかったとしている。過去の決断をとやかくいうよりも、福島の避難の教訓から学び、どのような条件なら帰宅すべきかを、避難の際にきちんと伝えることが必要だと述べている(FT)。

「最初にすぐ引っ越そうと考えるのはおそらく悪いアイデア」というトマス氏は、越智氏の意見をさらに一歩進め、原発企業がリアルタイムで「今の汚染レベルなら、これだけ寿命が縮む」という健康情報を公開すべきだと述べる。もし人々が2日だけしか寿命が縮まないと知れば、それをもとに残るかどうかを決断できるとしている。もっともこのようなアプローチは、洗練されたリスク理解と率先して行動することが必要だとFTは述べており、一般の日本人にとっては、かなりハードルは高そうだ。

Text by 山川 真智子