公園の倒木でけが、市に210億円賠償請求 米で「民事訴訟」が盛んな理由

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 アメリカはいつ誰にどんなことで訴えられるか分からない「訴訟大国」であるといわれる。筆者の住むハワイ州の場合、ビジネスを始めるにあたってオフィスや店舗をリースする際には訴訟リスクを考慮したビジネス保険に加入することが法で強制されていなくても「常識」となっており、加入しないとオフィスや店舗のリース契約ができない。

 アメリカで実際あった訴訟といえば、1992年にニューメキシコ州アルバカーキで起こった「マクドナルドのコーヒーこぼし事件」が世界的に有名だ。この一件では、熱すぎるコーヒーを渡されてこぼし大火傷を負った客が、マクドナルド社を訴え勝訴。同社に対し290万ドル(約3億円)の賠償金を命じる判決が下された。しかしその後、原告は同社と和解して約60万ドル(約6,300万円)程度の賠償金を受け取ったという(米政治・情報サイト『Vox』)。

 この一件が有名になったことからか、アメリカではとにかく傍目からみると目を丸くするような訴訟が多い。ここでは、過去アメリカで実際にあった訴訟の例を紹介し、それがなぜか検証してみよう。

◆根が腐った木が倒れ負傷してニューヨーク市を提訴
 米テレビ局CBSニューヨーク支局(電子版)の2月26日付記事によると、同市セントラル・パーク内で2017年8月に木が倒れ、女性とその子供3人がその下敷きになった。女性と子供たちはけがを負ったものの、命に別状はなかったという。

 女性は今年2月になり、市とセントラル・パーク管理委員会などを相手取り、2億ドル(約211億円)の賠償金を求めて訴えを起こした。

 女性の弁護士は木が倒れたのは木の腐敗を放置した市と同管理委員会の責任と主張。2億ドルという賠償金額を「今後このような事故を起こさないため、という点を主張をするため必要だ」としている。

◆泥棒が民家に押し入って撃たれ家の持ち主を提訴
 CBSニュース(電子版)の2012年10月26日付記事によると、米カリフォルニア州で民家に押し入った泥棒が家の持ち主である90歳の男性を銃で撃ち怪我をさせた。男性も泥棒を銃で撃ち返し、容疑者は逃亡。その後、容疑者が治療のため病院に行ったところを警察に逮捕された。

 しかし容疑者は後に家の持ち主である男性が銃で自分を殺そうとしたとして、男性を訴えたという。

◆スニーカーで客を殴った売春斡旋業者がナイキを提訴
 米オレゴン州地元紙オレゴニアン電子版『オレゴンライブ』の2014年10月1日付記事によると、代金を払わなかったとして腹を立てた売春斡旋業者の容疑者が客をナイキのスニーカー「エア・ジョーダン」を使って繰り返し殴った結果、逮捕され有罪判決を受けた。

 しかしこの被告は、ナイキがエア・ジョーダンに「武器として使用した場合は危険」という警告ラベルを付けていなかったとして、自分が受けた有罪判決はナイキの責任でもあると主張。同社を10億ドル(約106億円)を求め提訴した。しかし男の訴訟はすぐ判事により退けられたという。

◆訴訟文化の根底にある「自分の身は自分で守る」姿勢
 一般的にアメリカ人は「責任」を認めることを嫌う傾向があり、交通事故などを起こした場合でも「相手には謝罪しないように」と言われる。謝罪をすれば自分の非を認め、相手に訴訟のチャンスを与えることになるからである。

 では、なぜアメリカでは他国よりこのような訴訟が盛んなのだろうか? 米政治・情報サイト『マザージョーンズ』の2010年8月25日付記事では、ヨーロッパよりアメリカで訴訟が盛んな理由として、アメリカでは弁護士の力が強いことや、ヨーロッパでは訴訟に負けたほうが裁判にかかった費用を支払うことが多いこと(そのため訴訟に慎重になる)、そしてアメリカでは法の抜け穴が多いため、このような訴訟がまかり通っていることなどを挙げている。記事ではまた、アメリカには民事訴訟を奨励する風潮があるという意見も紹介している。

 どうやら、アメリカで訴訟が多いのはアメリカ人の性格だけではなく、国全体の「文化」的な部分があるらしい。銃を持つ権利と同様、訴訟文化からもアメリカ人の「相手を攻撃する結果となっても、自分の身は自分で守る」という姿勢が見えてくる。

Text by 川島 実佳