「超感覚」はトレーニングで磨くことができるのか?
◆劇的な結論
しかし、我々の知覚はどの程度改善できると期待していいのか?それは、トレーニングにかける時間と労力、そしてどれほど効果的であるかによって異なるが、相当な成果が出る可能性もある。我々の研究では、触覚のトレーニングを2時間うけるだけで、被験者の知覚は元の約42%も鋭敏になった。驚くことに、感覚受容体が本来担うべき枠を超えて、「超感覚」の範囲にまで強化されたという実験報告もある。
視覚を例に挙げると、人は実際、目の中にある個々の受容器の間隔よりも細かい解像度で対象物を見ることができる。これは、カメラの画素数を思い浮かべればわかりやすい。画素数が多いほど、細かいものが見える。超感覚の場合、画素数の解像度以上のものを見ることができるのだ。触覚や聴覚などでも同じような結果が出ている。
では、いったいなぜこのようなことが起きるのだろうか。それは、脳の巧妙な処理によるものだ。我々の脳は受容器のグリッド全体で画像の「重心」がどこにあるかを特定し、グリッド上にある情報の空間的クラスタリングによって、その位置や形状を明らかにする。実際、知覚したもののうち、受容器官が認識した内容は、脳と比較して驚くほど少ないことが分かっている。
たとえば、視力を向上させるトレーニングでは、目の中の光受容体には一切、手を加えない。これらの受容器を介して知覚情報がすべて脳のシステムに取り込まれる際、トレーニングによって脳が余分なノイズを除去し、より効果的に知覚信号の「波長を合わせる」ことができるようにするのだ。
受容器のレベルでは、学習が起こり得ないことを示すエビデンスは他にもある。それは、知覚学習は拡張していくということだ。たとえば、片手の指一本の知覚を訓練すると、この学習は脳内でリンクされている他の指にも奇跡的に広がっていく。
頭脳を鍛えることで、身の回りの世界から知覚情報を抽出する方法を改善できるというのは、我々にとって朗報だ。年齢を追うごとに感覚の知覚力は低下するので、なおさらだ。
逆に、経験豊富な技術開発者や科学者は、いずれもこのアイデアをフランチャイズ化するため、尽力している。彼らは知覚学習のコンセプトを活用して、頭脳トレーニングアプリを作成しようとしているのだ。これらのアプリは、受容器の欠陥や老化によって起きる問題を克服することはできない(中には効果のないものや、うさんくさい科学にもとづいたものもある)。しかし、アプリが正しく設計されていれば、大幅に知覚力を向上させることができる。このような知覚トレーニングプログラムは現実的な効果につながるというエビデンスもでている。野球のパフォーマンス向上のための視覚訓練もその一例だ。
すでにインターネットで展開開始しているものもある。その一例が、カリフォルニア大学リバーサイド校の知覚学習研究者が設計したアプリ「アルティムアイズ」だ。他にも、クラウドファンディングには聴覚トレーニングのプロトタイプもあり、他の研究グループもこれを追随している。ひょっとすると、我々が知覚力を自分の手で(まあ、手の中の携帯電話で)操作できるようになる日も近いかもしれない。
科学が急速に進歩するなか、我々は知覚機能を最大限引き出し、感覚喪失を経験した人のリハビリテーションを支援し、そして、今よりも素晴らしい自分になれる夢のような機会へと向かって進んでいるのだ。
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by isshi via Conyac
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