ドイツのあるフードバンクが外国人の登録を停止 批判殺到でNPOが釈明

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 ドイツには、余った食料品を貧しい人に配る、ターフェルというフードバンクがある。ところがエッセン市のターフェルが、ドイツ国民以外の新規利用を停止した。この判断をめぐって、外国人に対する差別ではないかと批判の声が上がっている。一方、貧しい人を助けるのは本来政府の仕事で、ボランティアに頼っていていいのかという疑問の声もある。

◆整備されたフードバンク。貧しい人々を支える
 ドイツには930以上のターフェルがあり、賞味期限の近い食品を商店や飲食店から集め、貧しい人々に配給している。受給資格があるのは、失業給付など、国からの援助を受けている人のみだ。認められた場合はターフェルに登録され、1年間の会員証が与えられる。これにより本人とその家族は、週一回、決められた時間にターフェルに出向き、食料品を受け取ることが許される。ターフェルは非政府組織で、支部が置かれた都市、州や連邦政府との関係はない。店から食料品を集めて回るドライバーたちは、ほとんどがボランティアということだ。(ドイチェ・ヴェレ、以下DW)。

 エッセン支部の会員証を持つ人は現在約1800人で、配給により約6000人の生活が支えられている。ところが昨年12月から、外国人への新規の会員証の発給を停止していることが、地元メディアによって2月下旬に明らかになった。(DW)。

 エッセン支部の措置に対して人権擁護団体から、差別であり極右グループの思うつぼだ、という批判が出ている。他の地方のターフェルからも、助けが必要な人の階級分けになると、問題視する声も上がっている(AP)。

◆外国人激増。粗暴さでドイツ人を駆逐?
 大きな注目を集めたことで、ターフェルのエッセン支部長、イェルク・サルトル氏は急きょ会見を開き、いまやエッセン支部の6000人の利用者の75%を外国人が占めていると説明。この割合はあまりにも高すぎるというのが、支部の理事会の見解だと述べた。なお停止措置は一時的なもので、数ヶ月後には元に戻す予定だとしている(DW)。

 同氏はまた、外国人の数が増えたことで、ドイツ人利用者が来なくなったというボランティアからの報告があったと述べた。マナーの悪さが問題視されており、若い独身男性を含むたくさんの外国人が、列に並んでいる老婦人への配慮もなく、配給所のドアが開くと同時に押し合いへし合いを始めるという。こういった行為が、ドイツ人利用者を不愉快にさせていると、同氏は地元紙に説明している(ロイター)。

 DWのインタビューを受けたドイツ人利用者は、自分の配給時間に遅れてきたロシア人、ポーランド人、アフリカ人らが、次の配給時間の列に割り込むような厚かましい行動もしばしば見受けられるとし、一部の人々には不運だとは思うが新ルールには一理ある、と述べている。

◆広がる格差。弱者の保護はだれの責任なのか?
 今回の件で、ドイツ政府のウルリケ・デンメア報道官は特定のケースについてのコメントは避けるとしながらも、「ドイツは思いやりの国であり、困っている人誰もが援助を受けるべき」と述べた(AP)。

 しかし、そもそもターフェルの第一の目的は食べ物の無駄をなくすことで、低所得者の救済ではないという。エッセン支部長のサルトル氏は、十分な食料を皆に与えることはむしろ政府の仕事だと指摘し、もしターフェルが無くなることでお腹を空かせる人が出るのなら、この国では何かが間違っていると述べている(DW)。

 ドイツ平等福祉協会のラルフ・ローゼンブロック氏は、エッセン支部が需要の拡大による混乱を民族による線引きで解決しようとしたことは問題だったとしながらも、貧困や食料不足にある多くの人々を置き去りにした連邦政府の政策も、咎められるべきだと主張している(ロイター)。

 2017年にロイターが入手したドイツ政府の報告書(当時未発表)によれば、1995年から2015年の間に、労働人口の下位40%の時給は実質ベースで4~7%減少したという。一方上位60%の時給は1~10%増加しており、格差は広がっている。

Text by 山川 真智子