中国の大学で初の「#Me Too」告発、検閲すり抜ける 弾圧強まる恐れ
世界的な#Me Too告発の動きが止まらない。中国では厳しいインターネット検閲体制を敷いているにもかかわらず、徐々にセクハラ告発が行われるようになっている。
これまで高い評価を受けてきた北京航空航天大学の陳小武教授が、複数のセクハラ行為に対する告発を受けて教員資格の取り消し処分になった後、中国トップクラスの数十の大学の女子学生や卒業生がインターネット上に、セクハラ行為に対する公式な防止策の確立を学校経営者に要求するサイトを立ち上げた。このようなセクハラ防止策は中国の大学にもあるが、事実上の実効力は皆無に等しい。この嘆願への署名呼び掛けには#EveryoneInという固有のハッシュタグがある。
2017年10月、ハリウッドの大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏が十件以上ものセクハラ被害の告発を受けたのを機に、#MeToo運動とこのハッシュタグは世界的な社会運動となり、性的暴行や性的嫌がらせに対する一般市民の認識を高めることとなった。それからというもの、世界中の女性が#MeTooハッシュタグを使い、オンライン上で自身の体験を共有し続けている。
この動きは中国全土にも広がったが、中国当局の厳しいインターネット検閲制度が壁となり、オンライン上でその動向を確認することはとても困難だった。「セクシャルハラスメントに反対」などのフレーズがソーシャルメディア上で検閲の対象となった、と活動家は語る。
しかし、北京航空航天大学の卒業生、羅茜茜さんが自身の受けたセクハラ被害をネットに投稿し、その記事が急速に広まるにつれ、状況に変化が生まれた。
羅さんは現在、アメリカに住んでいるが、彼女が大学の博士課程に在籍中の12年前、陳小武教授が羅さんを自身の姉の家に誘い出し、羅さんに体の関係を強要した時の詳細について述べた手記を発表した。羅さんが抵抗したことで教授のレイプ行為は未遂に終わったものの、また別の女子学生は陳教授の迫った性行為を受け入れ、妊娠してしまっていたことを羅さんは後に知ることとなる。
中国語版ツイッター「微博」の羅さんのアカウントは、一夜にして世界中の人々の注目を集めることとなった。中国当局の検閲担当者はこの件のもみ消しに躍起となったが、北京航空航天大学に在籍する別の女子学生5人が自分たちも陳教授から似たようなセクハラ被害を受けた、と次々と名乗りを上げたことから、当局は対応が遅れ、彼女たちの投稿を封じ込めることが出来なかった。
北京航空航天大学は調査を行い、陳教授に関してセクハラの事実があったことを認め、当時の同氏の大学院常務副院長としての職務を解任し、大学院生の指導教授資格を取り消す処分を下した。さらに中国教育部は、陳教授が持っていた「長江学者」の学術称号もはく奪した。
この決定は中国のソーシャルメディアプラットフォーム、「微博」上で広くリツイートされ、大きな話題となった。
北京航空航天大学の学生は、「微博」のニューススレッドの1つでこの懲戒処分についてコメントした。学生は、このようなことは何も今に始まったことではない、とした。
北京航空航天大学の現役学生として、私は、性的嫌がらせに対する学校側の対応が残念ながら後手に回っているとしか言いようがありません。このような事例はこれまでにも報告がありました。「知乎」(オンラインプラットフォームの1つ)でもこういった暴露記事が投稿されましたが、この投稿は削除され、被害者は脅迫されました。告発は闇に葬り去られたのです。同じような(性的嫌がらせ)事件は、北京航空航天大学から1キロしか離れていないところにある北京郵電大学でも発生しました。その件では調査は一切実施されませんでした。皆、政府の怠慢に失望しています。ますます多くのエリートたちが中国を離れていきます。長期的に見て、私たちはこの国に何らかの希望の光を見いだすことはできるのでしょうか?
男女同権主義の活動家たちは、今回の陳教授に対する処分は小さな勝利である、と評価しながらも、大学キャンパス内でのセクハラは、風土病ともいえる中国固有の問題であり、依然として大学にはこの問題に対処する具体的な政策が整備されていない、と警告している。
2015年3月8日の国際女性デー当日、セクシャルハラスメントに反対する行動を計画した罪で公安に逮捕された男女同権主義の活動家の1人、韦婷婷氏は2017年9月、大学キャンパス内でのセクハラ行為に関する全国規模の調査を実施した。回答した6592人のうち、70%近い人数の女子学生が様々な形態のセクハラ行為を受けたことがある、と答えた。
多くの回答者が、陳小武教授のセクハラ行為は氷山の一角に過ぎない、と考えている。
リビングルームの中央でゴキブリを一匹見かけたとすれば、それは通常、部屋の隅には無数のゴキブリが生息しているということになる。
中国の教育部門は、幼稚園から大学に至るまで目を覆いたくなる惨状を呈している。環境は劣悪で、全く安全ではない。しかもその問題は当局によって抑圧されるかきれいさっぱり無かったことにされている。
この事件が社会における体系的な権力の濫用を反映している、と指摘した者もいる。とあるユーザーは自身の投稿の中でこう語る。
『欲望と渇望』が支配する社会において、どうすれば人々はその誘惑に打ち勝てるのだろう? 特に、公権力を行使できる人間は、その立場を利用して女性を誘い出そうとする。そうなれば、女性たちは自身の立場を失うまいとして、好むと好まざるとにかかわらず、その強迫に服従せざるを得ない。
組織的な職権乱用の問題に対処するため、北京大学、復旦大学、武漢大学などを含む数校の大学の学生、卒業生および教師たちは、学内の性的嫌がらせを防止するために一連の監視と懲戒処分のしくみを導入するよう学校当局者に対し、公に要求した。
さらに、1月19日、国内の様々な大学に属する50人以上の教授が中国教育部に対し、学校内、大学キャンパス内での性的嫌がらせに対し具体的な方針で対処するように強く勧告する宣言に署名した。教授たちは、罪を犯した者は裁判所で起訴されるべきだ、と語った。そして、セクハラを隠蔽することなく白日の下に晒すこと、性的暴行の被害者を保護することを固く誓った。
しかし、近年、大学キャンパス内でのセクハラ対策の方針を確立するための同じような要請が再三提出されているものの、いまだに具体的な政策は導入されていない。
韦婷婷氏ら男女同権主義の活動家たちは、この機に乗じ、セクハラ撲滅のためにさらに強い公的な圧力が適用されるよう要求している。
羅茜茜さんの件はほんの一例に過ぎない。第2、第3、またはそれ以上の『羅茜茜』はおそらく枚挙に暇がない。(自分が被った被害を告白するのに)羅茜茜さんは12年の歳月を要した。一方、他にも大勢いる『羅茜茜』たちは、我々の知らない水面下で苦しんでいる。
これは、#MeToo運動の中国の大学キャンパス版だと考える人もいる。私は、#Me Too運動はまだまだ不十分であることを強調したい。全員の参加が必要だ。
性暴力の被害者たちだけが立ち上がって自身のことを告白するだけではなく、(男性も女性も)誰もが『私もここにいる』と言って行動を起こす必要がある。
#Me Tooは、性暴力の被害が語られる部分に対処しているに過ぎない。性暴力の被害の告発があれば、より多くの人が皆、『私もここにいる』と言い、行動を起こして調査を行う必要がある。
韦氏はクラウドファンディングキャンペーンを立ち上げ、次のような計画を立てた。
1. 調査報告書のコピーと一連の政策提言を調査に参加した211の大学に送付する
2. (全国的な反セクシャルハラスメント)ネットワークを維持するコーディネーターの給与支援を行う
3. より多くの人々に、ネットワークに参加してもらう
一方で、現在の中国における#Me Too運動は、オンライン上の弾圧の新たな局面と向き合うことになるだろう、とする懸念がある。2015年に、5人の男女同権主義を唱える活動家が国際女性デーである3月8日より前にセクシャルハラスメントを声高に非難した罪で逮捕された。
ニューヨークタイムズ紙の報道では、大学キャンパス内でのセクシャルハラスメント対策の方針を公に要求する訴えは検閲の対象となる、とした上で、活動家たちの運動は、外国軍と共謀し、国家を裏切る活動と見なす、とする警告を当局から受けたという。国際女性デーが近づくにつれ、男女同権主義者たちと中国内の#Me Too運動の支持者たちは、当局によるさらに厳しい検閲の実施に対し、気持ちをさらに引き締めている。
By OIWAN LAM
This article was originally published on Global Voices. Read the original article.
Translated by ka28310 via Conyac