米女子体操虐待、問われるべき「傍観者たち」の罪 訴え否定、口止めも

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◆「親に話しても信じてくれなかった」女性の家庭の悲劇
 この事件で問題になっているのは、ラリー・ナサール被告が性的虐待を行っていたことだけでなく、周囲の人々がナサール被告の行いを止めず、被害者の訴えを信じず否定したり、被害を訴えた女性たちに口止めをしていたりして半ば傍観していた点である。

 前出のミシガンラジオ記事によると、1998年から2001年まで同大学に通っていたソフトボール選手がナサール被告による性的虐待を体育学部当局者に訴えたところ、ナサール被告の「治療」は正当な医療であり、「(ナサール被告との間で)起こったことについて口外すべきではない」と告げられたという。

 ラリー・ナサール被告の友人の娘カイル・スティーブンスさんは、法廷で6歳の頃からナサール被告に性的虐待を受けていたと証言。芸能誌ピープルの1月25日付記事によると、スティーブンスさんの父親は彼女の訴えを信じなかったばかりか、ナサール被告との付き合いを今まで通り続けることを選んだという(父親はその後2016年に自殺)。

◆「傍観者」の責任
 CBSニュースは2月1日付記事で、ミシガン州メリディアン・タウンシップ市の警察が、前述した2004年にナサール被告による性的虐待を届け出た被害者女性の訴えを却下したことを正式に謝罪したと報道した。警察は、「ナサール被告が正当な治療法を使ったという弁解を信じたことを後悔している」と述べ、捜査に誤りがあったことを認めた。周囲の人々が被害を受けた子どもたちの訴えを真剣に聞いていれば、ラリー・ナサール被告による性的虐待被害者はこれほどに増えてはいなかったはずなのである。

 USAトゥデイ(電子版)の2017年10月20日付記事によると、ハリウッドの重鎮プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏によるセクハラ・性的暴行容疑が明るみに出た際、クエンティン・タランティーノ監督は「(ワインスタイン氏の容疑は)噂でもゴシップでもない。(中略)私は彼がこのような行為を数回行ったことを知っていた」「自分が聞いたことについて、私は責任を取るべきだった」と語ったという。ラリー・ナサール被告による性的虐待がなぜ長期間続いかは、彼の周囲に同じような傍観者がいたからに違いない。

 ナサール被告の罪に関して今年1月、ミシガン州立大学学長と同校の体育学部長が辞任した。今後もこの事件で、ミシガン州立大学や警察、米体操連盟内に対する訴訟や、当局者の辞任や解雇、または逮捕にも発展していくことだろう。

 直接罪を犯したわけではなくても、見て見ぬふりをすることで被害者は増えていく。その意味では傍観者も悪事に手を貸したと言われても仕方がないのである。

Text by 川島 実佳