日本の調査捕鯨、海外からは依然厳しい視線 イワシクジラも問題に

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 昨年11月に日本の調査捕鯨船が南極海に向けて出発した。調査捕鯨は、2014年の国際司法裁判所(ICJ)の判決を受け、捕獲数を削減した新計画のもと行われているが、国際社会は日本から納得できる継続理由が示されていないと考えており、商業目的だと批判している。調査という「抜け穴」を利用してクジラを獲り続ける日本の姿勢に、環境保護団体などからは厳しい視線が向けられている。

◆ついにシーシェパードも降参。日本は捕鯨を続ける
 ガーディアン紙は、日本の船団が現在南極海でミンククジラを獲っていると報じた記事で、南極周辺の海域は長らくクジラの聖域とされてきたにもかかわらず、日本は「調査」と称し捕鯨を継続しており、これは政治的放火行為だと主張している。ノルウェーも商業捕鯨を行っているが、自国の領海内での操業で、南極海という保護地域での捕鯨を行う日本に、環境保護団体は憤っていると述べている。

 過去にはシーシェパードのような環境保護団体が、日本の捕鯨阻止キャンペーンを行っていたが、日本で「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法が成立したことなどを理由に、2017年は活動断念を発表した。また、日本が捕鯨船に政府から提供を受けた軍事用装置を付けたことや、ICJの判決で捕獲数を減らすと同時に捕鯨エリアを2倍にしたことで、追跡や妨害がさらに困難になり、活動をあきらめたとシーシェパード側は説明している(ガーディアン紙)。

 ドイチェ・ヴェレ(DW)によれば、シーシェパードは2008年にオーストラリアの税関職員が撮影した日本の捕鯨の様子を昨年11月に公開している。ビデオには、刺さると体内に金属片が広がる仕組みの捕鯨用の銛を撃ちこまれ、数十分間苦しみ続けるクジラの姿が映っていたという。豪政府は日本との外交関係の悪化を恐れ、このビデオを出さなかったとシーシェパードのジェフ・ハンセン氏は失望の意を示したが、日本の捕鯨問題を国際海洋法裁判所に持ち込み決着を付けるよう、豪政府に働きかけているとのことだ。

◆実態はほぼ商業目的。イワシクジラにも疑惑の目が
 南極海だけでなく、日本が北太平洋で行っているイワシクジラの「調査捕鯨」も問題視され、昨年11月に開催されたワシントン条約の常設委員会会合で議論された。日本は昨年134頭のイワシクジラを捕獲しているが、イワシクジラは絶滅の恐れがある保護動物として、条約の「付属書1」に記載されており、商業目的の国際取引が禁じられている。調査捕鯨ということで、目や卵巣などの一部の臓器は科学的研究のため保存されてはいるものの、大部分を占める他の部位は、冷凍や真空パックにされ、日本国内の消費に回されているとアメリカの非営利団体Animal Welfare Institute (AWI)は指摘し、違法な鯨肉取引ではと、各国から疑問の声が上がったと述べている。

 結局その会合では、委員会の議長は疑問への返答のため日本に1年の猶予を与え、同時に事実究明のための使節団を招待するよう日本に要請した。この決定に、各国の保護団体は遺憾の意を表明している。AWIのスー・フィッシャー氏は、このままでは翌年もまた134頭のイワシクジラが犠牲になると述べた。他の団体からも、明らかに日本の捕鯨は商業目的でルール違反だと言う声が上がり、早急に日本の違法行為に対応しなければ、ワシントン条約の評判まで傷つけてしまいかねないと危惧する意見も出た(AWI)。

◆鯨の次はマグロ?国際社会の管理を嫌う日本
 ガーディアン紙は、他の国がクジラを保護しようとするなか、日本が捕鯨を続ける理由は興味深いと述べる。シーシェパードの創設者ポール・ワトソン氏は、一度捕鯨禁止の求めに降参すれば、海洋においての行動が国際社会によって決められることに許可を出したと受け止められ、クロマグロなどの次の漁獲禁止につながることを日本は恐れていると見ている。同紙はまた、保守派でナショナリストでもある安倍首相が、伝統に関する問題での譲歩に反対しているという見方も紹介している。一部の観測筋は、捕鯨は日本独特の文化であり特別の国際的地位を与えられるべきであると主張することで、安倍首相が捕鯨をナショナリスト的関心に変えようとしていると指摘している。

 現在南極とその海域の資源利用については、南極条約で厳しくコントロールされているが、2048年には条約の期限は切れる。新条約についての交渉では、そのときもし日本が南極海での存在を維持していれば、この地域でより大きな影響力を持てるよう主張してくる可能性もあるとガーディアン紙は指摘し、日本の動きを警戒しているようだ。

Text by 山川 真智子