遺体動画、悪いのはユーチューバーだけ? プラットフォームの欠陥を指摘する声

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 人気ユーチューバー、ローガン・ポール氏が、青木ヶ原樹海で見つけた自殺者の遺体の動画を投稿したことで、世界的に大きな批判を受けている。本人は謝罪をし、YouTubeはポール氏に対する処分を発表したが、今のままのYouTubeの仕組みでは今後も同様の事件が起きるだろうと指摘されている。

◆変わってしまったYouTube。注目こそがすべて
 英日刊紙メトロに寄稿した、ユーチューバー兼ライターのルーシー・ウッド氏は、「最初にハマったときには予期できなかった方向に、ここ数年のYouTubeは向かっている」と述べる。以前のユーチューバーたちはいたって普通、だけどおもしろくてちょっとだけ変な、仲間のような存在だったとする。YouTube自体が、小さなユーザー、小さなコミュニケーションの場を支え、見る側の意見に耳を傾け、個性あふれるクリエイティブなコンテンツを静かに上げる人々の発掘に力を貸してきたが、現在は経済的利益と知名度を支えているように見えると同氏は批判する。金を稼ぐマシンに短期間で成り下がったYouTubeでは、ふわふわのエイリアン帽姿で死体を撮影する男のビデオがお奨めでトレンディになると述べ、2016年の調査で15~25歳の実に70%が夢の職業に「YouTubeスター」をあげたことを嘆いている。

 アトランティック誌は、今回の事件で最も心配なのはポール氏の行動ではなく、彼を有名にした歪んだインセンティブ(動機)だとし、注目こそがすべてというネット界の状況を問題視する。オンラインプラットフォームは何よりもエンゲージメント(客との結びつき)の最大化を求め、それにより我々から人間性を奪うようなコンテンツを好むようになると指摘する同誌は、同様のプラットフォームが増々ティーン文化を支配しているのが現状で、ポール氏だけでなくすべてのソーシャルメディア・スターが大人が用意したインセンティブに応えているのだと述べる。14歳の子供にスマホを渡して、これで有名になれるかもしれないと大人は教えるが、これでは本当に大金を得た子供がいつカメラをオフにすべきか分からないのは無理もないことで、反発が起きるまで問題の動画が広がり続けたのもさほど不思議ではないとしている。

◆責任なきプラットフォーム。求められる規範
 ウェブ誌『The Verge』は、YouTube上には古いメディアでは絶対に検閲を通らない攻撃的で偏見に満ち、倫理観のないコンテンツが載せられてきたと述べ、これは責任のないプラットフォームとしてデザインされたYouTubeが可能にしたものだとする。大きなプラットフォームが、だれでもスターになれるという理想的な夢をユーザーに売るのはいいが、実際には倫理的責任や世界中の何百万人ものファンへの影響に対する備えのない者をスターダムに押し上げており、ナチズムがクールだと思うような中二病患者を扱うことで、企業側も自分の手を縛っていると指摘する。メトロ紙記事のウッド氏も同様の考えで、数のためならためらいなく何でもするというクリエイターは、YouTubeが自ら作り上げたモンスターだと述べている。

 リバプール・ジョン・ムーアズ大学のジャッキー・ニュートン講師は、コミュニケーション上の倫理の基本的把握がユーチューバーとユーザーにとって必要であることを今回の事件は示したとみており、ポール氏の道徳的罪がYouTube側のアクションを促すことを期待する。同氏は、ルールや基準のあるジャーナリズムとは違い、YouTubeはコンテンツ提供者の敬意やガイダンスに頼った状態だと述べ、プロのコミュニケーション規範の外で活動する若者には無理な求めだとしている(政治・文化誌ニューステイツマン)。The Vergeも、下劣なコンテンツが拡散されることで、倫理や基準の価値を思い起こさせてくれたとし、問題解決のため単に嫌悪を示し子供に配慮しろと求めるよりも、明確で個々の状況にあった行動規範を制定するべきだとしている。

◆懲りないユーチューバーたち。視聴者にも責任
 今回の事件を受けYouTubeはポール氏の処分を発表したものの、YouTube上では以前にたくさんのユーチューバーが問題を起こしては復帰を果たしており、新種のソーシャルメディア・スターはこの上ない回復力を持っているとニューステイツマン誌は述べる。同誌はYouTube上では越えてはならない一線は存在しないとし、どんな違反がなされようが、過去5年間の経験から、恥辱を受けたユーチューバーは今後も動画を作り続けるだろうとしている。

 ウッド氏は、ポール氏のようなユーチューバーがトレンド入りするのはそれを見る人がいるからだと述べ、今のYouTube文化と環境を作り上げているのは他でもない見る側だとする。同氏は、初期に皆が愛した小さなユーチューバーは今でも存在しているとし、悪い動画を見るのはやめ、ポジティブなメッセージを出す良きユーチューバーを応援しようと述べている。

Text by 山川 真智子