「黒塗り」のサンタのお供、人種差別か伝統か 問題視されるオランダの祭り

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 オランダでは、12月5日は聖ニコラウスを祝う日だ。聖ニコラウスはシンタクラースと呼ばれ、サンタクロースの元になった人物とも言われている。毎年、相棒のムーア人(アフリカ北西部の人々を指す)、「ブラック・ピート(オランダ語ではZwarte Piet)」を連れてやって来るとされており、オランダ人たちは、ピートに扮し顔を黒塗りにしてお祭り気分を盛り上げる。ところがこれが、人種差別ではないかと近年問題視されている。

◆オランダのクリスマス。サンタの相棒はトナカイではなかった
 ワシントン・ポスト紙(WP)によれば、オランダで聖ニコラウスの来訪を祝うのは11月下旬から12月初めで、大きなパレードが全国で開催されるとのことだ。アイリッシュ・タイムズ紙に記事を寄せた在アムステルダムのアイルランド人留学生、イーファ・ドランさんは、家族で集まりプレゼントを交換し、子供たちには聖ニコラウスからプレゼントがあることなどは通常のクリスマスと同じだが、1つだけ違う点があると述べ、それがブラック・ピートだと述べている。

 ピートは聖ニコラウスのそばで踊り、子供達にお菓子を投げるいたずら好きの褐色の肌を持つムーア人だ(ユーロニュース)。ドランさんによれば、ブラック・ピートは、10世紀の中ごろに、童話の中の聖ニコラウスのお手伝い役として、初めて登場した。典型的な扮装は、顔を黒塗りにし、唇を赤く厚くし、クレオール・イヤリングと呼ばれる大きな円形イヤリングを付け、アフロヘアのカツラを付けるものだという。

◆悪気がなければ差別ではない?多くは伝統と主張
 WPは、ピートの扮装は明らかに人種差別的だとし、国内の多くの活動家が長年抗議の声を上げてきたとする。ユーロニュースも、凝りすぎたキャラクターには、人種差別的カリカチュア(誇張や歪曲を加えた人物画)だという批判があるとしている。その一方で多くの地域は、これまでの伝統的ピートを変えることを拒絶している。ガーディアン紙によれば、オランダの388の自治体のうち272を対象に行った調査では、実に239の自治体が、2017年も伝統的なイメージのままで続けたいと回答していた。

 反対派と擁護派の意見の相違は対立を呼び、昨年国内で一番に聖ニコラウスのパレードが開かれたドッカムの町では、反対派の乗ったバスの侵入を極右ナショナリストの一団が阻止するという事件が起きた(ガーディアン紙)。近年は、反人種差別のグループがパレードで抗議活動を行うと同時に、白人至上主義グループが黒塗りを移民に対する抗議活動に利用する動きも見られ(アイリッシュ・タイムズ紙)、事態はより複雑になりつつあるようだ。

 ドランさんは、ブラック・ピートは単に悪気のない習慣だとする擁護派と、人種差別だという反対派に分かれている現状に対し、これまでにないほど世界はコスモポリタンとなっており、伝統や習慣は、世の中の進歩と協調し発展すべきだと述べる。すでに文化的に当たり前となっているものに疑問を呈するのは難しいが、アイルランドで同性婚が認められたことを例に、タブーや当たり前とされていたことに立ち向かうことで社会はより強くなると主張する。ユーロニュースの取材を受けた反対活動をする女性は、ブラック・ピートのイメージは有色人種、特にアフリカ系オランダ人には攻撃的で害のあるものだが、それと同時に、人種差別への議論を停滞させてしまうため、オランダ全体にとっても良くないものだと指摘している。

◆国連からも指摘。見直しの動きに期待
 2015年には、国連人種差別撤廃委員会が、「ブラック・ピートのキャラクターは、ときとしてアフリカ系の人々のネガティブな固定観念を反映するやり方で表現され、多くのアフリカ系の人々にとっては、奴隷制の名残として感じられる」とし、オランダにブラック・ピートの伝統を止めるように求めた(アイリッシュ・タイムズ紙)。これを受けて、アムステルダム市では、ピートの顔が黒いのは、聖ニコラウスの手伝い中に煙突のすすが付いて顔が汚れたためとし、カツラやコスチュームについても見直しを図り、人種的な特徴を取り払うことを決めた(ユーロニュース)。

 WPは、ブラック・ピートの問題は、人種的ないじめ、偏見と戦う有色人種のオランダ人の子供たちの側になって考えるべき問題だという見解を示す。オランダは、奴隷制度の歴史の副産物とも言える社会的人種差別と闘いつつも、先進的で寛容な国というイメージがある。同紙は、より共生的な社会を反映してブラック・ピートを変えていこうとする取り組みが一部の都市で始まっていることは良いことだとし、今後のオランダの取り組みに期待を寄せている。

Text by 山川 真智子