秘密裏の拘束、密室裁判、手続無視……中国の「不穏分子」弾圧が最悪の状況に

Paul Traynor / AP Photo

 5年間に及ぶ刑務所暮らしとその後3年にわたる公安監視下の自宅軟禁の後、中国の人権問題弁護士である高智晟(Gao Zhisheng)氏はもう我慢できなかった。

 8月13日、複数の友人と協力的な運転手の手助けを受けて監視の目をすり抜け、高氏は面識のない人の家にかくまってもらった。そこで振る舞われた豚肉団子。これほどの料理を口にできたのは数年ぶりのことだった。

 しかし、自由な生活は長く続かなかった。警察は3週間もすると彼が山西省介休市にいることを突き止め、1軒1軒を捜索し遂に高氏は発見されてしまったと、逃走を手助けした李发旺(Li Fawang)氏は共同通信に語っている。高氏の現在の所在は不明だ。

 高氏の苦境は、複数の活動家が話している通り、 10月の党大会にてここ数十年で中国最強のリーダーとして浮上した習近平国家主席の体制下で、人権運動家を取り巻く状況が劇的に悪化していることを物語っている。

 中国経済の発展が続き、世界に与える影響力が増している現在、中国には独裁主義者的な一党体制が必要と習主席は感じているのだろうと、アナリストはみている。同時に、中国の若者が政治に疎遠となっており、改めて市民の日常生活で党の存在を高めようとしているのだ。

「人権はお先真っ暗、改善の兆しはない」と、香港拠点のヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch)研究者の王松莲(Maya Wang)氏は話している。昨今の抑圧は1989年の北京・天安門を中心として起きた民主化を要求する抗議活動への残忍な取り締まり以来の最悪な事態だとしている。「状況はさらにひどくなるのではないだろうか」。

 王氏らが指摘しているのは、秘密裏の拘束や密室裁判、適正手続の無視といった事案の増加だ。政治犯の健康問題に対しても、当局はますます目を背けるようになっている。活動家によると、政治犯は独房に監禁されたり、他の収容者か暴行やその他の虐待を受けたりするなど、厳しい状況に置かれている。

 ドナルド・トランプ大統領政権下の米国はそれほど援助の手を差し伸べていないようだ。11月の北京訪問に際しトランプ大統領が人権問題を取り上げなかったことで、「最悪の人権侵害を犯している中国政府にお墨付きが与えられた」と、王氏は話している。

 中国は法に則った国家運営をしており、第三者は中国の「司法主権」に異議を主張する権利はないとして、中国政府は人権侵害に対する非難を封印している。さらに、複数政党制や欧米にみられる「普遍的権利」の概念は中国の社会を弱体化させ、経済面での実績を損なう恐れがあると警告しつつ、こうした考え方は持続しないと一蹴する。

 党大会終了後の状況はさらに悪化していると、タイを拠点に活動している中国人の呉玉華(Wu Yuhua、哎烏(Ai Wu)としても知られる)氏は話している。

「状況はひどくなっている。良心の囚人が拷問、侮辱、嫌がらせ、差別を受けている。中国の人権に関しては、私は悲観的だ」と、毓氏は言う。

 多くの人権活動家にとって、収監中の状態でノーベル平和賞を受賞した劉暁波(Liu Xiaobo)氏が7月に肝臓がんで亡くなったのは最悪の出来事だった。国家転覆を扇動した容疑で懲役11年の有罪判決を受けていたにもかかわらず、民主的な中国を実現する勇気と強い信念で劉氏は象徴的な存在だった。

 彼の未亡人である劉霞(Liu Xia)さんは起訴されることはなかったものの、劉氏の収監期間を通して北京の自宅で事実上の軟禁状態にあった。夫が亡くなってから、彼女は実質的に友人や家族と連絡を取っておらず、当局は彼女の現在の拘留場所についてコメントしていない。

 他のあまり知られていない係争事案においても、党が反対意見を抑圧する実態が証言されている。

 作家兼人権活動家の楊同彦(Yang Tongyan)氏は8月に治療のために仮出所した後、11月初めに56歳で亡くなった。国家転覆罪による懲役12年の判決を全うする目前のことだった。彼は1989年の当局による取り締まりを10年にわたって非難していた。

 楊氏の死によって、「治療のために仮釈放された活動家が死亡する事例についての説明責任が著しく欠如している」ことが浮き彫りとなったと、アムネスティ・インターナショナルは、拘留中の治療が拒否されたと言われる活動家の曹順利(Cao Shunli)氏が臓器不全で2014年に死去した事実も取り上げつつ報じている。

 健康面での問題は、長らく活動をしている黄琦(Huang Qi)氏も悩ませている。土地の没収、解雇、地方での汚職に対し救済を求める一般の中国国民による、多くは報われることのない取り組みを記録したウェブサイトを構築した人だ。昨年11月に拘束された黄氏の裁判は来年まで予定されていないと、彼を弁護する隋牧青(Sui Muqing)氏は話している。

 50代半ばの黄氏は腎臓と心臓に病気を抱えているが、刑務所にある購買部では十分な食事や日用品を調達できないと、隋弁護士は述べた。

「刑務所では、彼の基本的な医療ニーズを満たすことはできない」と、隋弁護士は話す。 黄氏の母親も、息子は塀の向こうで1年も生きていけないのではと心配している。

 活動家の家族に対しても報復活動が行われている。

 北京の王宇(Wang Yu)弁護士の10代の子息は国外渡航を禁止されているため、オーストラリアへの留学計画を断念せざるを得なかったと彼の父は話す。王氏は2015年7月9日に行われた国を挙げての弁護士および活動家の一斉検挙の際に拘束され、その後釈放されたものの、内モンゴル自治区で厳重に監視されていた。北京に戻ることを許されたのはつい最近のことだ。

 他方、非合法とされた法輪功というスピリチュアル運動のメンバーを擁護し、農民の土地所有権を巡る争いで国際的に有名になった高氏(53)にとっても関心は高い。彼は自身が拘束されていたときに受けた拷問を公式に非難したことで、虐待の標的になってしまったようだ。

 2014年8月に釈放されたとき、活動的だった高氏が歩くことも話すこともままならなかったため、中国の人権運動で最も人の感情を揺さぶったほどの人が完全に破滅させられたという疑念が起きた。高氏は何年にもわたる虐待と低栄養により歯が抜け落ちてしまい、流動食しか口にできない状態だ。

 超法規的な自宅軟禁下にいた彼は、陝西省の自宅周りにいる制服、私服の当局関係者により常時監視されている。そのような状況下でも、ときどきメッセージングアプリを通じて外部と通信しているほか、3年間の独房監禁を含む刑務所での暮らしをまとめた著書を刊行さえもした。

 高氏の逃走を手助けした友人の李氏は、「彼を守ってやれなくて残念だった」と話している。高氏が再逮捕されてから李氏も1ヶ月以上にわたり拘留された。逃走に協力したもう1人の友人である邵重国(Shao Zhongguo)氏はいまでも拘留されている。

 習体制下では少数民族に対する抑圧も増加しており、何百人ものイスラム系ウィグル人やカザフスタン人が政治再教育施設に収容されたという未確認情報もある。チベットの人たちも、国外に渡航できないなど厄介な制約や政府による介入を受けている。

 活動家たちは、状況がさらに悪化するとみている。

「習近平は、あらゆる犠牲を払ってでも社会を統制する決意を固めている。誰が何と言おうと意に介さない」と、北京で厳しい監視下に置かれつつも長らく民主活動を続けている胡佳(Hu Jia)氏は話す。「彼の最終的な目的は共産党による支配を守ること。自由を求めて闘う人がいれば、その人自身の自由が失われることになるだろう」。

By CHRISTOPHER BODEEN, Beijing (AP)
Translated by Conyac

Text by AP