独大学、EU圏外留学生の「授業料免除」終了か 「無料」よりも「質」でアピール
日本では大学教育の無償化が議論されているが、ドイツでは2014年に一般授業料が廃止された。自国民とEU市民には大学教育を無料とする欧州の国々はあるが、国籍を問わず、すべての学生の大学教育を無料としていたのはドイツだけで、経済的理由からドイツを目指す外国人学生は多かった。しかし、今年から非EU圏の学生から授業料を徴収する州が出ており、その是非が問われている。
◆無償化は教育に対するドイツの信念。少子高齢化も影響
高等教育機関の自主的組織であるGerman Rectors’ Conferenceのブリジッテ・ゲッペルス=ドレイリング事務次長は、高等教育はアングロサクソンの世界では、「職業的成功や高給等の個人的利益」と捉えられがちだが、ドイツの場合はスペシャリストを養成することで国全体が恩恵を受けられるという、「公共の利益」として捉えられているため、学費は無料だと解説する。また、低所得世帯出身者にも高等教育の門を開く意味もあると述べている(ドイチェ・ヴェレ、以下DW)。
ドイツの大学では、国籍を問わず授業料は無料とされてきた。英語で学べるプログラムを用意していることもあり、2002年から2012年の間に、外国人学生の数は50%増加した。EU圏外からでは、トルコ、中国、ロシア、インド出身者が多いという(ワシントン・ポスト紙、以下WP)。
WPは、ドイツが外国人学生受け入れに積極的な理由として、急速に進む少子高齢化を上げる。ドイツでは技術のある若い労働者の不足は数十万人ともいわれており、人材不足から儲かるプロジェクトを断らざるを得ない企業も増えているという。熟練した労働者の不足は、2040年には人口8000万人に対し330万人に達すると推定されており、外国人学生に無料で学位を与えドイツで就労してもらうことが、解決策の一つになると見られている。外国人学生の40%は、数学、自然科学、エンジニアリングを学んでおり、ドイツの雇用者が求める学術的分野と一致するという。
◆無償化は正しいのか?費用対効果に疑問
しかし、外国人学生のドイツ国内での就職はかなり厳しいようだ。2015年の研究では、卒業後外国人学生の5人に4人がドイツでの就職を希望したが、人手不足にもかかわらず、その30%は1年を経ても職が見つからなかったことが判明した。学生に人気のあるベルリンなどの都市での給料が低いこと、また英語で授業を受けていたため、職場で使えるレベルのドイツ語を習得していないことなどが原因と見られている(WP)。
このような事情から、英語で学ぶ学位に政府の補助金を付けるより、学校やインフラに投資したほうがよいのではないかという意見もあるとWPは述べる。前出のゲッペルス=ドレイリング氏は、授業料無料ということで多くの学生がドイツを目指すのは事実だとしながらも、学費が高い方が教育の質も高いという印象があるため、多くのポテンシャルの高い学生は、経済的余裕がある場合は英米の大学を選ぶだろうと述べる。ドイツ学術交流サービスのウルリッヒ・グローツス事務次長は、特にアジアでは国費に支えられた公立大学の質は良くないと見る人々も多いと述べており、大学ランキングで上位に入ることのほうが授業料無料よりも大切だと見ている。
◆非EU民は金銭的貢献を。有償化の波がじわじわ
WPによれば、バーデン・ヴュルテンベルグ州ではすでに今年からEU域外からの大学生に対して学費を徴収するようになった。インデペンデント紙によれば、この変更は州の財政的負担を減らすためで、学生が支払う額は、年間約3000ユーロ(約39万円)で決して高額とは言えない。しかしDWによれば、学費を課したことで、州内の7大学では外国人学生は3分の1も減ったという。
ドイツで最も人口の多いノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)州も追随する意向で、同州の科学省の報道官は計画を認め、学費徴収によって得られた財政的資源は、高等教育全体の質の改善のために使用すると述べている。科学省の担当者は、「海外の例を見れば、学生、ことにアジア人は自分達をお客と見ており、質の高い教育を提供すれば喜んで学費を払っている」と述べ、授業料を課すことで、外国人学生数が減るとは考えていないとしている(WP)。
一方DWによれば、バーデン・ヴュルテンベルグ州では授業料徴収に対し、州の4つの行政管区すべてにおいて学生が訴訟を起こしており、状況は複雑化している。