「口説き」とセクハラの境界線はどこ? 愛の国フランスで議論紛糾

Christophe Ena / AP Photo

 フランスでは、どの行為までを単に女性を口説いているだけと見なし、どの行為からをセクハラと見なすかで意見が割れている。

 ハリウッドの映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏のレイプ及びセクハラ行為が告発されて以降、愛の国とも言われるフランスでも女性に対するセクハラや暴行問題が取り上げられているが、解決に向けてはなかなか進展が見られない。

 ドン・ファン的国民性なくして、フランス男性の女性に対する態度を語れるのだろうかと疑問視する声もあがっている。

 フランスにおけるワインスタイン氏セクハラ問題の余波について執筆したギヨーム・ビゴ氏はAP通信の取材に対し、「フランスは、男性なら誰しも女性が大好きという国だ」と述べている。「女性を口説くことは、フランス人の国民性の中核を成すものだ……『フレンチラバー』や『フレンチキス』といったフランスの文化が、ポリティカル・コレクトネス (政治的妥当性)のせいで危機に瀕している」。

 しかしフランスの女性たちの間には、ビゴ氏の見解に否定的な意見も多く見られる。ビゴ氏に反対する女性らは、フェミニストのフランス人作家、シモーヌ・ド・ボーヴォワール氏の、女性が我慢を強いられているという意見に賛同している。

 インターネット上では、ハッシュタグ#MeTooが拡散される以前から、#balancetonporc (豚野郎を密告)というさらに露骨なフランス語版告発用ハッシュタグが出現しており、匿名でアカウントを作成する女性が続出。性的暴行を加えたとされる男性の名が、かつてないほど赤裸々に公開される事態となった。このような投稿は数十万件にものぼり、フランスの文化界や政界、ビジネス界に蔓延する性差別と女性搾取が取り沙汰され、このままフランスがハラスメントに対する戦いの先頭を走るかとも思われた。

 しかし現時点では、ドン・ファン的な考え方がまだ主流のようだ。

 告発を受けた男性の中には、フランス政府の元大臣、青年社会主義運動(Young Socialists Movement)の元代表、ニュース番組の元編集者、世界的に有名なスタートアップスクールのメンバーなどもいるが、その大半が告発内容を否定している。そればかりでなく、フランスの有力者らは、告発を受けたところで誰ひとりとして職や名声を失うことはなかった。

 哲学者のベルナール・アンリ・レヴィ氏は、セクハラの加害者として告発された人たちが、豚とまで言われるのは酷すぎると言い、インターネット上の告発運動を批判した。またフランスの「口説き」文化の擁護派からは、厳格になりすぎてアメリカのように清教徒的で過剰な反応をすれば、恋愛がまるで悪魔の所業のように見なされてしまうと警告する声もあがっている。

 ビゴ氏は、美女へのこだわりを国が認めている証拠として、若くて胸の大きな女性マリアンヌがフランスのシンボルとなっていることを挙げ、1969年にはグラマーな体型が魅力の女優、ブリジット・バルロー氏がマリアンヌの姿を象徴する女性に選ばれたことにも言及した。マリアンヌを象徴する女性には他にも、魅惑的な美人女優カトリーヌ・ドヌーヴ氏や、スーパーモデルのレティシア・カスタ氏が選ばれている。

 フランスのあるカルチャー施設においては、ロマン・ポランスキー監督作品の上映中止を求める抗議運動が行われたが、フランソワーズ・ニセン仏文化大臣はこれを遺憾とし、監督を擁護する立場をとった。

 ポーランド出身の映画監督であるポランスキー氏は、1970年代にアメリカで13歳の少女に、大量のシャンパンと鎮静剤のクアールードを飲ませた上で性的暴行を加えたと、自ら罪を認めている。しかしニセン大臣は、監督の「作品は非難しない」よう国民に呼びかけた。また施設側は、道徳を説くことが施設の役目ではないと主張した。

 ポランスキー監督は今年、フランス版アカデミー賞と言われるセザール賞の審査委員長に抜擢さえされた。

 ニコル・ベルベ司法大臣は、性行為を法的に認める最低年齢を13歳とする案について、「検討する価値がある」と述べたことで大きな驚きを呼び、この問題でもフランス国民の意見が対立している。活動家らはパリで抗議運動を実施。性行為の最低年齢を15歳とするよう求めた。

 フランス人は何十年にも渡り、自国の政治家やアーティストの仕事とプライベートを別物として評価することで、彼らへの敬意を示してきた。このような考え方があるから、愛人と隠し子がいたフランソワ・ミッテラン元大統領や、ニューヨークのホテルでの女性従業員に対する性的暴行容疑が浮上したドミニク・ストロス・カーン元国際通貨基金専務理事のような男性が擁護されてきたという意見もある。

 プライベートでの問題を特に気にしない風潮に対しては、フランスのフェミニストから批判が殺到している。彼らはハラスメントを大問題として取り上げているアメリカを賞賛する一方で、フランスは性差別を普通の出来事のように扱っていると非難する。

 フェミニストの活動家として有名なカロリーヌ・ド・アース氏は、「フランスでは、私たち女性は男性が掲げる騎士道の陰に隠れてしまうことがある。しかし騎士道というのは、女性に暴力を隠蔽させ、口説いているだけだと思い込ませるために生み出された概念だ」と言う。

 アース氏によると、セクハラの告発を受けてのフランス政府の対応は、イギリスやアメリカを始めとする他国の対応と比べれば「黙認しているも同然だ」。

 エマニュエル・マクロン仏大統領は、性的暴行があれば遠慮なく告発するよう女性たちに訴えかけた。マクロン氏はまた、オスカー賞を獲得したフランス映画『アーティスト』をプロデュースしたことでワインスタイン氏に授与されていたレジオンドヌール勲章の剥奪に向けても、いち早く動いている。

 今月24日、マクロン氏は、「我々はフランス社会の考え方を一から変えなければならない。性的暴行という、一部の男性が持つ支配衝動を鎮める対策が必要だ」と述べた。

 しかしフェミニストらは、フランスに深く根付いた性差別を撲滅するには、象徴的な措置では不十分だと言う。

「口説き」をテーマにしたフランス語エッセーの著者は、先週、『マダム・フィガロ』誌のインタビューを受け、ハラスメントは「口説き」とは全く異なるものであり、決して好ましい行為にはなり得ないと力説した。

 インタビューを受けたジル・リポヴェツキー氏は、「ハラスメントの加害者は女性を口説いているのではない。搾取しているのだ」と言う。

By THOMAS ADAMSON, Paris
Translated by t.sato via Conyac

Text by AP

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