共産、社会主義に魅かれる米ミレニアル世代 マルクスに3割が好意的
ベルリンの壁が崩壊し、ソ連が消滅してから30年近くが経過した。自由市場と法の支配を基礎とする資本主義の勝利であったが、そのリーダー国であるアメリカで、ミレニアル世代(1980年代から2000年代前後に生まれた世代)の間に共産主義、社会主義を新たな選択肢とする考えが広がっている。
◆格差に不満 資本主義にも不信感
The Victims of Communism Memorial Foundation(VCMF)は、毎年アメリカ人の共産主義に対する意見を調査しているが、今年の調査では、ミレニアル世代の10人中7人が、高所得者は公平な割合の税負担をしていると思えないと回答し、10人中4人が、アメリカは完全にその経済システムを変えるべきだとしている。資本主義よりむしろ社会主義、または共産主義のもとで暮らしたいと答えたミレニアルは、全体の半数近くに上った。全体として、共産主義のリーダーを好意的に見る者は昨年に比べ微減したが、マルクス、レーニン、毛沢東に好意的と答えたミレニアルは、それぞれ32%、23%、19%もいた。
ミレニアルはいまやアメリカにおいて最大の世代だ。米保守系シンクタンク、ヘリテージ財団が創設したデジタル・ニュースメディア『デイリー・シグナル』は、若者はソ連の独裁政治とアメリカの自由との間の半世紀にわたる戦いにはほとんど個人的経験がないとし、この調査の結果から、共産主義はもはやアメリカと西側諸国にとっての脅威ではないと考える人々は目を覚ますべきだ、と述べている。
◆左に寄るミレニアル 不況や政治家のイデオロギーの影響も
ワシントン・エグザミナー紙は、ミレニアル世代はアメリカの歴史の中でもっとも集団主義の世代だとし、金融危機による大不況、オバマ大統領の理想主義の波が影響を与えたと見ている。
ニューヨークで開かれた「資本主義を捨てるべきかどうか」の討論会に参加した若者たちの1人は、「現代の資本主義の失敗を見てきた」と述べ、よく機能する資本主義秩序という概念は、上の世代によってのみ語られるものだと主張する。子供時代に金融危機を経験し、大学を出た年上の兄弟が職探しに苦戦しているのを目の当たりにした彼は、自身を社会主義者と呼ぶバーニー・サンダース氏の大統領選の選挙運動にボランティアとして参加し、この経験がこれまでになく心に刺さるものだったと話している。別の参加者は、自分は社会主義者とまではいかないが、「左派」だと述べ、若者の間では、社会主義は政治的アイデンティティであり文化だと説明している(ブルームバーグ)。
◆定義の理解が曖昧 教育不足も影響か
VCMHの調査では、全世代を見て、コミュニズムにもっとも否定感が少ないのがミレニアルだ。デイリー・シグナルは、リベラルメディアの共産主義革命の取り上げ方にも問題があると主張し、共産主義の悪だけでなく好意的な内容を取り上げ、ロシア革命100周年特集を組んだニューヨーク・タイムズ紙を猛批判している。このような動きは、過去数十年にわたり休眠状態だった共産主義の文化的正常化の一部だとし、どおりで人類史上どの教義よりも多くの命を奪い、文明を破壊し、世界を闇に沈めようとしたイデオロギーである共産主義に、若者が非現実的な考えを持つはずだと憤る。歴史や自由についての若者の教育を改善しなければならないというのが、デイリー・シグナルの主張だ。
ワシントン・エグザミナー紙は、多くのミレニアルが資本主義に感じる嫌悪は、資本主義に関する教育の欠如に起因すると述べる。VCMFの調査では、「自由市場と私的所有の法的保護を含む法の支配に基づいた経済体制」という定義を与えられると、10%が社会主義と勘違いし、27%がどんな体制なのか分からないと回答した。また、6割以上が社会主義と共産主義の違いを理解していないという結果が出ている。
◆次世代は将来を楽観視。ミレニアルと対照的
一方で、さらに若いジェネレーションZ世代(1995年から2010年の間に生まれた世代)は、よりベビーブーマー世代と近い見方を持っており、経済の見通しにより楽観的で、66%がアメリカの経済システムは自分たちのためになっていると答え、ミレニアルの47%を大きく上回っているという。ワシントン・エグザミナー紙は、共産主義が残した負のレガシーを考えれば、ミレニアルが持つ親近感は気の滅入るものかもしれないが、すでにピークは越えたと考えており、ミレニアルもゆっくりと少しずつ、右へ向かうと見ている。