北朝鮮テレビのあの大げさな「ピンクレディ」は何者? 引退した彼女が再登板の理由

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◆声に正恩氏も感心?粛清をサバイバル
 WPが引用したブログ「北朝鮮リーダー・ウォッチ」によれば、李氏は1980年代からテレビにレギュラーで出るようになり、お天気から政府のイベントまですべてのニュースを読んでいたということだ。アナウンサーとして不動の地位を勝ち取った彼女は、長いキャリアの中で、1994年の金日成氏死去、2011年の金正日氏死去を経験している。特に、金正日氏死去は、彼女のキャリアのなかでもっとも有名な出来事であり、黒い韓服を着て、声を震わせすすり泣きながらニュースを読んだとWPは回想している。ガーディアン紙も、いつも好戦的な彼女が、このときばかりは涙を見せた、としている。

「北朝鮮リーダー・ウォッチ」は、李氏のすごさは、北朝鮮の政権で定期的に訪れる粛清から生き延びたことだと述べている。李氏は、多くの同僚や上司が解雇されたり、降格したり、再教育に送られたりするのを実際に見てきたはずだという。ガーディアン紙は、李氏のメロドラマ的なニュースの伝え方は、現リーダーの金正恩氏から称賛され、このことが世界でもっとも残忍な政権と評される北朝鮮で生き延びるのに不可欠だった、としている。

◆引退撤回? 重大ニュースを語れるのは、やはり彼女
 WPによれば、李氏は実は2012年にアナウンサーを引退しており、現在は「比較的豪華な」生活を家族と送り、後進の指導にあったっているが、7月のミサイル発射、5回目の核実験、そして3日の水爆とされる核実験など、政府は特別な発表となると、彼女にニュースを読ませている。

 ジョージタウン大学のビクター・チャ氏は、「政権が彼女を呼び戻したということは、現リーダーの祖父の、ハードライン冷戦時代のイデオロギーへの回帰を政権が強く望んでいることの表れではないか」とウェブメディア『Mashable』に昨年語っており、決して偶然ではないとしている。

「北朝鮮リーダー・ウォッチ」のマイケル・マッデン氏は、核実験成功などはトップレベルの発表で、北朝鮮が特に誇りとし、最高のプロパガンダ価値を持つと述べ、国内外にこのようなニュースを発信する役は、やはり李氏だとロサンゼルス・タイムズに語っている。

Text by 山川 真智子