私立校を廃止すべき? 深刻なイギリスの教育格差、求められる改革

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 イギリスの大学はほとんどが国立だが、小中高に値する学校は、公立と私立が存在する。16歳以上で私立校に行く者は全体の18%ほどだというが、一流大学への進学には圧倒的に有利だ。高額な学費を払える裕福な家庭の子ばかりがますます得をする現状に改革を求める声もあるが、それが実現しない事情もあるようだ。

◆私立校出身者のオックスブリッジ合格に秘策あり
 イギリスの超難関大学と言えば、ケンブリッジ大とオックスフォード大だが、英チャリティー財団サットン・トラストによると、2014年にケンブリッジ大学に合格した37.8%、またオックスフォード大学に合格した43.7%が私立校出身だった。インデペンデント紙によれば、両校に入学できる確率は、私立校出身者のほうが高くなるという。その理由の一つとして、公立校出身者は、コンピュータ・サイエンス、経済、エンジニアリングなどの最も競争率の高い専攻を選ぶ傾向があるのに対し、私立校出身者は、古典、音楽、語学などの最も競争率が低い専攻にも多く出願していることがあるという。

 難関大を狙う上で、私立校では入りやすいコースについての情報やガイダンスが、公立校よりも充実しているのではないかと、教育を通じた社会流動性の促進を目指すチャリティ団体、サットン・トラストのピーター・ランプル会長は指摘する。さらに、自分の適性より難関大に入ることを目的とした専攻選択をする私立校の生徒たちは、制度の抜け穴を悪用しているのではないかと苦言を呈している。

 これに対し、有名私立校の校長、ピーター・ハミルトン氏は、大学進学のためのAレベル、インターナショナル・バカロレア試験などにおいて、私立校では選択科目の幅が広く、オックスブリッジが提供する古典、音楽、語学などの専攻に対応できる仕組みとなっていると述べる。近年緊縮が続く公立校では、選択できる科目が限られ、クラスの人数も増えており、これが生徒を競争率の高い専攻に向かわせていると反論している。

◆金とコネがものを言う。高い学費も納得?
 オックスブリッジの入試だけではなく、私立校で教育を受けた者には特権があることに疑う余地がないというのは、ビジネス・インサイダー誌だ。英政府の社会流動性委員会の報告書によれば、2016年では、イギリスのジャーナリスト、医者、法廷弁護士の半数以上が、私立校出身者だったという。同誌は、教育の質のみならず、私立校出身者が持つ強力で使えるコネが、職業選択を有利にしていると見ている。また、昨今は就職前に無給のインターンシップを求められることも多く、その間の生活費の面倒を見てくれる裕福な親がいる私立校出身者のほうが、雇用者の求めに応じやすいとし、これも良い職を得るために有利になると指摘している。

 ジャーナリストのイアン・ジャック氏は、2012年にガーディアン紙に書いたコラムで、裕福な親を持つ者だけが特権を得られるイギリスの教育を変えるべきと述べた当時のマイケル・ゴーブ教育相が、私立校出身であったことを指摘した。リベラル、労働党寄りとされるガーディアン紙の編集長でさえ、過去60年に渡り私立校出身だとし、彼らの教育費が寮費込でいくらであったかを記している。ちなみに、当時の編集長の出身校の今年度の学費は、寮費込で年間3万6615ポンド(約513万円)、現編集長の母校の場合も3万2850ポンド(約460万円)と、庶民には手の届かない金額になっている。

◆不平等でも廃止できない私立校の魅力
 ガーディアン紙にコラムを書くティム・ロット氏は、子供はすべて平等の機会に恵まれるべきと考える。完全な平等を実現するのは無理だが、金があることで有利になるシステムは法的に規制すべきだとし、私立校を廃止し、親の財力に関係なく、能力のある子どもを選抜して入学させるグラマースクールを活用し、制度の歪みを少しでも正すべきだとしている。

 しかしロット氏は、私立校廃止は実質的に可能だが、政治的に不可能に見えると述べ、政治家も含め、不公平を是正すべきと言う人々の多くが、私立校の恩恵に与ってしまっていると指摘する。教育のあるミドルクラスの親なら、だれしも自分の子供に関わることとなれば、良心を捨ててしまうものだと述べている。

 前出のジャック氏は、政治家が求めるのは私立校廃止ではなく、公立校の改善だと説明する。私立校の公益法人格を取り上げ、課税を強めよという考えもあるが、これはさらなる学費の高騰を招き、押し出されたプロフェッショナル・ミドルクラスの子供達が公立校に押し寄せ、さらにひどい結果となるため、ここまでして私立校叩きをしたい人は多くないとも述べる。

 同氏は、私立校に全く縁のない庶民でも、古く伝統ある校舎や青々とした芝生のイメージなどに心なごむだろうし、公立校に通う自身の子供達も、ハリー・ポッターのホグワーツに夢中だと述べる。また、電車で出会った名門私立校の青年のマナーの良さは、高等教育を受けなかった自身の両親を感心させたとも述べており、負のイメージだけでないことを示唆している。結局のところ、金と階級という特権を維持する私立校とは言え、廃止にはおそらく修道院解体に要したぐらいの強い意志が必要だろうというのが、同氏の結論だ。

Text by 山川真智子