慈善団体、物乞いも電子決済に対応へ キャッシュレス時代で変わる寄付、施し

lzf / shutterstock.com

 カード払いやモバイル決済の普及により、出かけるときに現金を持たない人が増えたことで、道行く人々の財布やポケットの小銭を当てにしてきたチャリティやホームレスが、減収に見舞われているという。これを受け、キャッシュレス社会における新しい募金や施しの方法が考案されている。

◆世界でキャッシュレスが着々進行。もう現金はいらない?
 世界でキャッシュレス化が最も進んでいるとされるのは、スウェーデンだ。同国の英字ニュースサイト『The Local』によれば、小売業ではすでに80%の取引がカードによるものだという。BBCによれば、イギリスでも非接触型カードによる決済の伸びが著しく、現金による支払いは2026年までには5件に1件ほどになると、英事業者団体UK Paymentは予測している。

 ワシントン・ポスト紙(WP)は、10年前まではポケットに少なくとも5ドルや10ドルの少額の紙幣を入れていなければ出かけられなかったが、クレジットカードがどこでも使え、タクシー代はおろかチップや割り勘の支払いもスマホのアプリで完了できる今は、その必要もなくなったとしている。

◆「カードはあるが、小銭がない」に、ホームレス落胆
 カードやモバイル決済の普及で便利で効率的な世の中になったが、現金を持たない人の増加に困惑しているのが、物乞いをする人々だ。WPの取材に答えたホームレスは皆、お金を恵んでくれる人が少なくなったと答えている。

 ハーバード大学のエコノミスト、ケネス・S・ロゴフ氏は自著の中で、キャッシュレス社会では低所得者に補助金でデビットカード口座とスマホを与えることが起こり得るとし、スウェーデンの物乞いがすでに携帯を通じた寄付を受け付けている例を上げている。しかしWPは、ホームレスが銀行口座、カード決済用の機器、ネットアクセス、テクノロジーの知識を持つことは想像しがたく、「ホームレスが携帯なんかを持ったら、人の見る目が変わる」と述べる物乞いの男性のもっともな意見も紹介している。

 物乞いの減収を止めるため、アプリの開発も始まっている。WPによれば、シアトルの起業家が開発した「サマリタン(情け深い人の意)」というアプリは、Bluetooth対応の信号発信機ビーコンをホームレスに持たせ、通りがかりの人がアプリを通じてビーコンを持つホームレスに寄付ができるというものだ。またオランダでは、カード読み取り機を取り付けたコートをホームレスに提供し、道行く人にカードをかざしてもらうことで、募金を受けることができるシステムも開発されている(BBC)。

 いずれのシステムでも、ホームレス側は貯まった寄付金を地元の協力店で商品と交換することができるという。もっとも、この方法では支援組織とかかわりを持つホームレスしか利用することができないため、精神疾患や薬物乱用等の影響でルールに従うことが難しい人々、また自由をエンジョイし支援団体との関わりを拒む人々の助けにはならないという問題点もあると、WPは指摘している。

◆チャリティも変わらなきゃ。取りこぼし防止に着手
 キャッシュレス化は、街頭募金に頼っていたチャリティ団体にも減収をもたらしており、多くの団体が寄付獲得のため、非接触型決済導入に動いている。BBCによれば、イギリスではすでに昨年11のチャリティ団体がカード会社と協力し、カードの読み取り機を埋め込んだ非接触型募金箱のトライアルを開始している。イベント会場やスーパーのレジ横などに設置し、多くの寄付を集めたということだ。他にも、動物愛護のためカード読み取り機を埋め込んだジャケットを犬に着せたり、看板や自動車に読み取り機を取り付けたりするなど、寄付を集める試みが各国で行われているという。

 英バークレーカードによれば、現金寄付だけに頼っていると、チャリティ団体は今後年間8000万ポンド(約112億円)を取りこぼしてしまう計算だといい、小売業でさえ急速にキャッシュレスに移行する今、チャリティ団体も追随しなければ置いて行かれるという、電子支払サービスを提供するPPRPグループのCEOの言葉を紹介している(BBC)。

 募金や施しにはそもそもお金を出す人と受ける人との触れ合いが大切という考え方もあり、かざすだけで終わる善意は味気ないという考えもあるが、テクノロジーとは切っても切れない仲のミレニアル世代が増えるいま、その形も変わらざるを得ないようだ。

Text by 山川 真智子