28年ロス五輪「ほぼ何も建てない」 84年に続き五輪に“改革”をもたらすか

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 2028年のオリンピック開催地が米ロサンゼルスに決定した。既存の建物を活用する方針を示しており、新規恒久施設の建設はほぼ行わないことが特徴的だ。日本国内では、新国立競技場をめぐり、設計デザインの白紙撤回や過労自殺などの問題が起きている。東京もロスの方針を採用すべきだったのだろうか?

◆五輪のパラダイムシフトを狙うロサンゼルス
 ロスの方針については、米スポーツメディアのESPNが詳しい。1984年のロス五輪では、それまで赤字続きだったオリンピック運営を改革し、2.35億米ドル(約260億円)もの利益を上げている。これは放映権料やスポンサー制度の見直しなどで実現したもので、今回の開催でも既存のやり方に捉われない姿勢のようだ。

 米ウェブ誌『スレート』では、改革の一環として「ほぼ何も建てない」(8月1日)というロス市の思い切った方針を報じている。一部仮設施設は作るものの、選手村すら設けず、既存の2大学の寮を活用するという徹底ぶりだ。

 同誌では、2024年の開催都市となったパリも同様の戦略を採ると伝える。パリでは過去2回のオリンピックのほか、98年のW杯や昨年のUEFA欧州選手権などを開催しており、十分なインフラを備える。巨額の開催費用に悩まされる都市が目立つ中、こうした既存施設の活用は一つのトレンドになる可能性がある。

◆世界各地での失敗を踏まえた対応
 両都市が恒久施設の新設に慎重なのは、過去のオリンピック開催地がことごとく予算管理に失敗してきたためだ。ESPNでは、40億ドルの予算に対して実に130億ドルの支出となったロンドン五輪の例を挙げ、運営の難しさを指摘する。スレート誌もアテネ五輪で初期予算の10倍が費やされた上、建設された多くの施設が廃墟化していると伝えている。

 最も深刻と言えるのがリオの例だ。ロサンゼルスタイムズ紙は、リオ五輪開催の数年前から景気後退が始まったため、建設費の捻出に苦労したという。スレート誌の伝えるところでは、州の財政悪化を理由として州立大学が新学期の開始を無期限に延期するなど、財政は混乱している。巨額の建設費はリスクに見合わないというのが各メディア共通の見方のようだ。

◆東京オリンピックでも施設建設での混乱が……
 一方で日本国内でも、東京オリンピックの競技施設をめぐる混乱がある。日本経済新聞は新国立競技場の施工管理担当者である新人社員が3月に過労自殺した問題で、時間外労働が200時間に上っていたことを報じている。重機搬入が集中して繁忙期を迎えていたとのことだが、設計をめぐる混乱による工期圧縮にも原因の一端があるとの見方もできそうだ。

 これまでの経緯は読売新聞が詳しくまとめている。2012年11月にアーチを特徴とするハディド氏の案が選ばれた後、2015年7月になって白紙撤回が発表されており、時間的損失は大きい。また、この変更で空費された59億円の税金も日本にとって痛手だ。記事でハディド氏は高額の設計費について、競技場はオリンピック後も遺産となって受け継がれると弁解している。しかし、廃墟化したアテネやリオの施設の例を見る限り、必ずしもそうとも言えなさそうだ。

 なお、国内ではオリンピックに伴い東京ビッグサイトが民間利用できなくなる影響から、経済的損失も憂慮されている。一概にロスの方式が東京でもうまく機能するとは断言できないが、一つの挑戦的な取り組みとして参考になりそうだ。

Text by 青葉やまと