孤独な高齢者は金銭詐欺に合いやすい その理由とは
著:Keith Brown(ボーンマス大学 Director of the Centre for Post Qualifying Social Work)、Lee-Ann Fenge(ボーンマス大学 Professor of Social Care)、Sally Lee(ボーンマス大学 Post-Doctoral Research Fellow)
年金を貸金庫に投資するよう持ち掛ける詐欺が発生していると、詐欺捜査当局が警告を発した。イギリス重大不正捜査局は5月に開始した捜査の結果、貸金庫詐欺の被害者は1,000人に上り、被害額は約1億2,000万ポンド(約173億円)にもなることが判明した。
新たに発覚したこの貸金庫詐欺の他にも、様々な手口の金銭詐欺が確認されている。その多くが高齢者を狙った詐欺だ。そして悲しい話ではあるが、孤独であることが、金銭詐欺を始めとする悪質な犯罪のターゲットとなるリスクの増加に繋がる。
一部の人にとっては商業組織か詐欺師とのやり取りが、人付き合いをする唯一の機会となっている。セールスの電話や予知能力者からの手紙、何かの当選通知、あるいは商品カタログなどだ。そして金銭詐欺の犯人は、継続的に高頻度の接触を図り、被害者と詐欺師の間に強い絆を作り上げてしまう。
毎日何度も電話がかかってくるという人や、詐欺師から大量の郵便物が届くという人もいる。我々と共に調査を行ったNational Trading Standards scams team (訳:国家取引基準詐欺対策チーム) によると、1日30通以上もの手紙を受け取ったという被害者もいるそうだ。このように何度もかかってくる電話の相手をし、大量の手紙に返事を出すという作業は、詐欺被害者にとって事務業務のようなものになる。すると被害者の生活に習慣と目的が生まれ、それまで規律のない毎日を過ごしてきた被害者にとっては、この作業が大きな価値を持つこともあるだろう。
詐欺師とのやり取りを重ねていくうちに、被害者側に相手と個人的な関係性を構築しているという感覚が芽生えることが多々ある。さらに被害者にとってこの個人的な関係性が、騙されて支払うことになる金額以上の価値を持つ可能性がある。孤独な人は、金銭事情や詐欺について誰かと会って話をする機会が少ない。そのため詐欺師の持ち掛ける話に嘘がないか、二人の関係性が本物なのか、信頼のおける人物に相談することができない。
金銭詐欺の犯人は、マーケティングテクニックを駆使して被害者に取り入り、親近感を抱かせることに長けている。また詐欺師は社会と繋がっていたいという人間の欲求に訴えかけるよう意図的に言葉を選んでいるため、詐欺師の言うことには説得力があり、親しみが込められているように感じられる。
騙されたことに対する恥ずかしさや後ろめたさから、被害者がさらに孤立してしまう場合もある。恥ずかしい、後ろめたいという感情は、詐欺被害者に対して時おり投げかけられる「馬鹿だ」、「軽率だ」、「欲に目が眩んだ」といった言葉でさらに増長する。このような言葉は、詐欺にあった人々は助けを必要とする被害者などではなく、騙されたのは自業自得だと言っているようなものだ。すると被害者は自身の体験を語る意思と能力を失ってしまう。詐欺が相談件数の少ない犯罪となっている理由のひとつだ。なぜ自分が詐欺に巻き込まれたのか、その理由は被害者にとっては繊細な問題だ。そのため関係当局が被害者の対応にあたる時には、彼らを支援しようという姿勢を示さなければならない。
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