核家族社会のイギリス、三世代同居の良さを見直す動き その理由とは
日本の核家族化が話題になって久しい。厚生労働省によると、三世代世帯数の割合は全世帯数の中で、2015年は6.5%となっている。30年前の1986年は15.3%だったことからその進行具合がうかがえる。一方、伝統的に核家族社会といわれるイギリスでは、日本とは逆に三世代同居が増えてきている。
◆イギリスは同居でなく近居が伝統的
神戸大学大学院の平井晶子准教授の論文(2007「核家族社会イギリスと直系家族社会日本の親族関係:比較研究への覚書」)によると、イギリスでは少なくとも産業革命が起こる以前の17世紀から「2組の夫婦が同居することを避ける社会」、つまり核家族社会であった。
1995年の調査では、「67%の親が子供(未婚・既婚を含む)と1時間未満で会いに行けるところに暮らしている。しかもそのなかで15分以内に暮らしているのが半分を占めており、現在もなお近居が維持されている」とある。20年以上前の調査結果ではあるが、イギリスにおける根本的な考え方がここからわかるだろう。
◆イギリスの三世代世帯が増加している
ところがそのイギリスで三世代世帯が増えつつあるという。国家統計局によれば、三世代世帯数は1996年の16.7万世帯から2016年の32.3万世帯まで増加している。割合でいうと、1996年には全体の0.7%だったのが、2016年では1.19%になっている。まだまだ数字としては小さいが、統計学的には重要な変化と言えるだろう。
テレグラフ紙によれば、三世代世帯が増えているのは、不動産の高騰や高い介護費対策など、金銭的な理由によるものだという。バークレイズ銀行が行った調査では、3分の2の回答者が三世代同居は高齢化問題の解決策になりえると考えている。回答者のうち半分以上が引っ越しの必要があるだろうと考えていて、5分の1は増築などの必要があると考えているので簡単ではない。
それでも親夫婦の資金が加われば、これまでは手に届かなかった物件を購入するのも夢ではなくなる。不動産会社のアドリアン・アンダーソン氏は、「家族全員のドリームシナリオではないかもしれません。けれどもケアの必要な老いた両親の存在と世帯コストの上昇から同居を始める家族を、私たちはますます見るようになってきています」と語っている(テレグラフ紙)。
◆三世代世帯へのシフトチェンジが求められている
国の介護費の絶対的な不足から、老人が病院に入院して介護を受けるといった形を減らしていく必要がある。それには自治体や家庭によるケアの提供が今後必要になってくる。昨年の7月まで保健省の大臣だったアリステア・バート氏は在任中、ガーディアン紙で三世代同居を呼び掛けている。
同居に関するレポート記事は各紙で散見される。子育て人員が増えたメリット、税金対策やうまく暮らしていくための秘訣といった内容のものも多い。
同居がまだ珍しいものであるために関心が持たれるテーマであるのか、社会保障費の財源が課題となっている国の意向があるのか。今後の動向を見守りたい。