子供の性的指向を認めないのは児童虐待、児童相談所が保護 カナダの州法が物議

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 家庭内で解決すべき親子の問題について、行政はどの程度立ち入るべきなのか、そんなことを考えさせられる法案がカナダのオンタリオ州議会で可決された。この法案を巡り、家庭内の問題に行政が立ち入ることへの懸念の声が上がっている。

◆一筋縄ではいかない宗教や家庭の方針の問題
 話題となっているこの法案は、子どもの性的指向について保護者が同意しない場合にはそれを児童虐待と見なすというもの。子どもは保護者から引き離されCAS(Children’s Aid Society、日本でいう児童相談所)によって保護される。その後、保護者の反省度を見つつ裁判所での審理を経て、親元に戻されるのか、里親などが手配されるのかが決められるという。

 血を分けた親子であってもそれぞれの人権は尊重されるべきであるが、性的指向(多くは同性愛者)については各家族の宗教などの繊細な問題が絡んでくる。宗教によっては、同性間での性行為は子孫を残すことのない行為であり快楽にあたるとしており、快楽に浸ってはいけないという教義に反するのである。

 キリスト教系のオンラインニュースサイトであるクリスチャン・ポストは6月4日、「法案はクリスチャン、そして、子どもを持つあらゆる宗教の信者にとって脅威である」とする政治戦略家ジャック・ホンセカ氏のコメントを掲載している。

 同サイトではさらに、復活祭で子どもにチョコレートを持ってくるといわれる架空の生き物、イースターバニーはいないと教えている家庭を紹介し、CASの行き過ぎと思われる家庭への介入の例を紹介している。

 この家庭では嘘をつかないという方針があり、子どもたちにも決して嘘をつかないという。そのため架空のモノ(ここでは、復活祭の時にチョコレートを持ってやってくるイースターバニー)の存在に対しても嘘をつくことなく本当はいないと教えているが、CASはカナダの大切な文化の一つであるからイースターバニーは存在すると教えるようにと指導。その家庭が里親として預かっている二人の女児を保護したという。日本でいえば、サンタクロースや節分の鬼は本当はいないと教えるのか、教えないのか、という問題である。

 有志が集まり形成されるオンラインコミュニティーのシチズンGO (CitizenGO)では、この法案を「全体主義的であり、カナダにおける親権と宗教上の権利を脅かす」と批判。撤回するよう請願書に署名を集めている。このオンライン署名には、6月12日現在で、目標5万人の約半分となる2万1千人の署名が集まる。

◆成長の過程の反発か虐待か、その見極めをどうする?
 その他、子どもの主張を元にCASに大きな権限を与えることになるので、家庭内のよくあるトラブルなのか、実際に児童保護機関が間に入らなければならない問題なのかがきちんと判断できるのか、という問題もある。

 利益団体「リアル・ウーマン・オブ・カナダ」はこの点に関して法案の原案が上がって間もない1月に、「実際に、多くの子どもは保護者の示した方向に従うことに抵抗するという成長の過程をたどる」として子どもの親に対する反発は成長過程の一つという意見を既に表わしており、「結果として、親が指示通りに行動することを主張すると子どもは『精神的、感情的』不快感を経験することもある。新法案によれば、この親子間のやり取りも法案の規定に基づき、子どもは家庭から切り離される」と述べている。

 つまり、子どもの通常の成長過程であったはずの行為が、行政が絡んでしまったために、将来を左右する大きな問題となってしまうことを懸念しているのだ。

◆子どもを守るとは、本来どういうことなのか?
 行政による今回の決定は、親の教育方針や信念、家族の結びつきを行政が断ち切る権限を持つと受け止められている。性的指向という子どもの基本的人権を守ることを目的として設定された法案ではあるが、子どもと親、両方の支持を受けることは難しいのは明らかだ。CASによる、子どもの本心を読み解き、本当に子どもを中心に置いたケースバイケースの柔軟な対応を期待したい。

Text by 西尾裕美