科学者が図らずも、希少種を絶滅に追い込む密猟者に加担してしまっている

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著:Benjamin Scheeleオーストラリア国立大学 Postdoctoral Research Fellow in Ecology)、David Lindenmayerオーストラリア国立大学 The Fenner School of Environment and Society Professor)

 Googleを立ち上げて「ゴマバラトカゲモドキ」と入力すると、「ゴマバラトカゲモドキ販売中」(たったの150米ドル、送料込)と自動検索結果が表示される。今、売買取引が行われることで絶滅に追い込まれる野生動物が増えている。この非常に珍しいヤモリもそのうちの一種だ。

 ショッキングなのは、ゴマバラトカゲモドキの違法取引が始まったのが、2000年代初めにその存在が初めて科学的に類型化された直後だということだ。

 これは、このケースに限ったことではない。密猟者は、新たな希少種の生息地や生態に関する情報を求めて関連する学術論文に目を光らせているのだ。

 5月26日に学術誌「サイエンス(Science)」で掲載される小論文で、我々は科学者が一般に公開する情報量について見直す必要があるかもしれない、と言及している。皮肉なことに、オープンアクセスと透明性の原理が、絶滅危惧種にとって大きな脅威となる詳細なオンラインデータベース制作につながってしまったのだ。

 我々自身もこういったことを経験している。絶滅の恐れのある「pink-tailed worm-lizard」(ヒレアシトカゲの一種)というヘビに似た驚くべき生物について調査していた時だ。オーストラリアのニューサウスウェールズ州で活動する生物学者には、科学調査中に発見したすべての生物種について、オンラインの野生生物マップにデータを提供する義務がある。

 しかし、データ公開後、我々が活動していた土地の所有者の敷地内に侵入者が現れるようになった。侵入者はオンラインの野生動物マップをしっかり見ていたのだ。これは動物を危険にさらすだけでなく、研究者と土地所有者との長期的な関係を悪化させてしまう出来事だ。

 野生生物の違法取引はインターネット上で爆発的に増えている最近報告された種のいくつかは、科学文献に登場した直後に密猟によって壊滅状態となった。特にリスクが高いのが、地理的範囲が狭く生息地が限られている動物で、非常にたやすく特定されてしまう。

 希少種や絶滅危惧種の情報に無制限にアクセスできることによって深刻化する問題は、密猟だけではない。熱狂的な野生動物愛好家は、科学的論文、政府とNGOの報告書、野生生物マップを精査し、珍しい動物を追跡して写真撮影や捕獲をおこなう。

 これは動物の生態を大きく阻害することになり、特定の微小な生息域を破壊し、病気をまん延させる可能性がある。特筆すべき例としては、最近ヨーロッパで発生した水陸両生のカエルツボカビの発生だ。これはサラマンダー(サンショウウオ)の皮膚を「食べる」性質を持つ病原体だ。

 この病原体は、野生生物の取引を通じてアジアから持ち込まれたもので、すでに数種のファイアサラマンダーを絶滅に追い込んでいる。

◆制限なきアクセスを見直す
 密猟者が自ら最新の科学的データで武装できる現代では、詳細な所在地や生息地の情報をパブリックドメインに含めることが適切なのかどうか、早急に見直す必要がある。

 我々の主張は、科学者が公表前に自問自答すべきだということだ:この情報を提供することは保全活動に有益か、それとも有害だろうか?この生物種は特に外的要因による混乱に脆弱ではないか?成長に時間がかかり、また寿命は長いのか?密猟の標的になりやすくはないか?

 幸いにも、こういった計算がかかわるケースはほんの一部だ。研究者というのは、愛すべきものとは言えない対象に学術的な情熱を燃やすものかもしれない。しかし密猟についていうなら、一般的に広く商品として好まれるのは、カリスマ的で魅力的な動物に限られる。

 しかし、経済的な価値が高く、十分な保護を受けていないという高リスクのケースでは、科学者が意図しないまま種の減少に加担することがないように、自らを律していくことを検討する必要がある。

 希少種や絶滅危惧種の情報を制限することには代償も生まれ、一部の保全活動を阻害する可能性がある。しかし、悪意のある者(もしくは故意ではない者)が絶滅危惧種を発見できるような詳細情報を伏せたとしても、多くの有益な情報は公開できる。

 人々がこの問題を認識し、それに適応し始めているという兆しがある。たとえば、新種の生物にかかわる情報は現在、位置データまたは生息地の記述なしで公開されている。

 生物学者は、古生物学といった他分野から教訓を得ることができる。古生物学において、重要な化石発掘現場は不法収集を避けるために、非公開になることがよくある考古学でも同様の慣行が一般的だ

 科学的および社会的に重要な情報の公開を制限すれば、そこからまた新たな課題が生まれることになり、その答えはまだ出ていない。たとえば、世界規模でデータを照合する安全なデータベース構築、という難問は未解決のままだ。

 研究内容を自由に利用できるようにする、という動きはポジティブなものがほとんどだ。そこから共同作業が生まれ、新たな発見につながっていく。しかし、位置データ公表を法的、学術的に要求することは現実のリスクと見合っておらず、危険なことなのかもしれない。

 生物学者は、数世紀にもわたって希少種や絶滅危惧種に関する情報を公表してきた。歴史上、この慣習は特に害を及ばさないことがほとんどだったが、世の中が変化するにつれ、科学者も過去の常識を見直す必要がある。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by isshi via Conyac

The Conversation

Text by The Conversation