今年も、世界最先端のデザインが集結するミラノ・デザインウィークがやってきた。4月20日から1週間にわたり、ミラノは業界関係者や報道関係者で賑わう。多くの市民や観光客も参加する。メインイベントは世界最大規模の国際家具見本市『ミラノサローネ』。そして、市内各地のアートギャラリー、美術館、倉庫、広場などで開催される数々のデザイン展やイベント(すべてのエリアを総括して『フォーリサローネ』と呼ぶ)が、デザインの祭典をさらに盛り上げる。

ミラノサローネは、元々イタリアの家具やインテリア製品の輸出を促進する目的で始まり、今年で64回目を迎えた(主に業界関係者向け)。市内に無数の展示が広がるフォーリサローネは、1980年代にミラノサローネから派生し、1991年に公式なイベントになった。各エリアの開催歴や内容は様々だが、イゾラ(ISOLA)地区の『イゾラ・デザインフェスティバル』では循環型デザインに特化した展示もあるので紹介したい。

イゾラという名前は聞き慣れない人も多いかもしれないが、木々や草が生い茂る2棟のタワーマンションのボスコ・ヴェルティカーレ(イタリア語で、垂直の森という意味)で知られるエリアだと言えば、わかる人も多いだろう。

2014年秋に完成したこのマンションは、理想的なサステナブル建築の先駆けとして、世界の注目を集めた。このグリーンカーテンはデジタル灌漑システムによって管理され、1年に1度、専門スタッフによる手入れが行われているという。

今年、イゾラ地区のデザインフェスティバルは10周年を迎えた。全体テーマは『10:進化する現在(TEN: The Evolving Now)』。イゾラ・デザイン・グループが主催するこのフェスティバルでは、6つの会場で10種類の展示が行われる。加えて、パートナーによるキュレーション展示もある。このフェスティバルは、独立系の若手デザイナーたちがミラノ・デザインウィーク期間中に発表の場を見つけにくかったことから始まった。当初の若手デザイナーのための実験的な展示プラットフォームは国際的なネットワークへと成長し、いまではミラノ・デザインウィークにおいて有名な地区になっている。

イゾラ・デザインフェスティバル2026のメイン会場Fabbrica Sassetti(1930年代の旧工業施設)

Isola Design Festival 2026_Awards Winner’ Showcase_ RainWeaver by Xinnan YU, Sihan Wang, Jiumo Wang ©Xinnan YU, Sihan Wang

Isola Design Festival 2026_Shape of Belonging_DOME x Alma Mater Collection 2026 by Arianna Bavuso, AB+AC Architects ©Ines Silva Sà

Isola Design Festival 2026_Designtech_Urban Collective Project_Oasi in Città

『No Space for Waste』展の家具

イゾラ・デザイン・フェスティバルの展示の1つ、『無駄なスペースは一切ない(No Space for Waste)』は、リサイクル素材や活用されていない資源を魅力的なアイテムへと変貌させるプロジェクトに焦点を当てている。イゾラ地区では、環境に考慮した循環型デザインをテーマにした展示を以前から行っている。デザインの世界でも持続可能性への関心が益々高まり、徐々に実践が進められているが、本展では、単に持続可能性の利点を強調するというより、【持続可能性、美しさ、機能性を融合させた】35点のデザインが集められた。

以下で8作品を見ていくが、特に2つの点に注目してほしい。1つは、「自分の家やオフィスで使いたい!」と思わせるデザインばかりという点だ。「デザインは遠くから眺めるものではなく、見る人が直接ふれあい関わるべきものである」という考え方がイゾラ・デザイン・フェスティバル全体に貫かれている。

もう一つの重要な点は、「デザインにおいて文化的アイデンティティを尊重していこう」という姿勢だ。多くのデザイナーは、特定の地理的・文化的文脈に基づいてアイデアや素材や技術を生み出している。ローカルであることは個性となり、それらを一同に集めることで国際的な交流が生まれる。様々なデザインアプローチを知ることで、見る人は「今後、もっと責任ある消費者になろう」と刺激を受けるのではないか。

Cosmic Structures

©Agustin Mosca / TramaRaiz, Sebastian Aparicio

Agustin Moscaは、根、菌糸、神経ネットワーク、宇宙の複雑な構造など、全く異なる文脈において繰り返し現れる“同じ形態”にずっと心を奪われてきたという。そして「これらの視覚的な反響は、すべて同じ原理で織られているのではないか」と思ったことから、繊維を織ったり結んだりして本作を作り上げた。制作を進めるにつれ、ランプの中に現れる形が、織物や根だけでなく、宇宙のイメージにも似ていることに気づいたという。

しかし、彼は宇宙そのものを表現しようとしているのではない。この作品は、人間、自然、そして宇宙が絡み合うものの縮図(万物を繋ぐ普遍的なネットワーク)を表しているそうだ。素材は、有機的なシェードはペルーで採取された葦、台座やその他の部分はペルー産のカチンボ材。両者とも耐久性に優れている。

Off-Form Lamp

©Nao Iyama

積み木、チーズ、あるいは歯を連想させる、シンプルな中にも遊び心が光る個性的な和風デザインのランプは、Nao Iyamaの作品だ。日本デザインの特徴であるミニマリズムと機能美、そしてヨーロッパデザインの特徴である多様性と個性という、2つの視点からアプローチした。素材は楮(こうぞ)の樹皮繊維から作られる日本製の楮和紙。生分解性で、再生可能だ。高い強度を持つ楮和紙は日常使いから文化遺産の保存や芸術作品まで広く利用されている。
楮和紙(日本の手漉き紙の技法)はユネスコ無形文化遺産に登録されているが、後継者の不足が深刻だ。このプロジェクトは、手漉き素材とデジタルモデリングと3Dプリント技術を組み合わせることで、和紙を扱う技術的なハードルを下げ、伝統を現代的に再解釈して将来の可能性を広げていくことを目指している。

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Silico Lamp

  

©Alon Shstel 

このランプが、豊胸用のシリコンバッグで作られているとは誰も想像できないだろう。形成外科医の家庭で育ったDaniel Kleinは、幼い頃から豊胸シリコンバッグに神秘的な美しさを感じていた。シリコンバッは通常10年で交換が必要になるが、使用済みでもまだ状態のよいものもある。
「シリコンバッグをクリエイティブに活用できないか」と考えていたKleinは、ある日、シリコンバッグにライトを当ててみたところ、クラゲのようなインスピレーションが沸き上がった。こうして、柔らかな光を放つSilico Lampが誕生した。乳白色、透明、黄、青の4色展開。

“Gli Straccivendoli” – Chromaterico Textile Objects

ベンチのSfrido ©Chroma Composites communication team

テーブルのBrandello ©Chroma Composites communication team

斑模様と太い支柱が特徴的な3種類の家具、ベンチSfrido、棚Cencio、テーブルBrandelloは廃棄素材を利用した新しいコレクションだ。売れ残った衣料品や不良衣料品から得たリサイクル合成繊維と有機繊維をブレンドした“Textilite(繊維の石)”で作られている。

このブレンド素材の研究は、デザイナーのDavide Bald(繊維廃棄物のリサイクルと再利用に重点を置き、環境汚染の削減を目指すArcheomatericoを設立)が、廃棄物を利用した持続可能なバイオ素材をデザインと建築のために開発しているイタリア企業、Chroma Compositesで行った。Chroma Composites が独自に開発したMersusと呼ばれるハイブリッド化プロセスが用いられている。このコレクションは、繊維業界における廃棄物の新たな循環方法を提案する。

Geometry of Waste

©Studio Francesca Müller

Francesca Müllerがデザインした3枚の幾何学模様のラグは、一見すると特に変わったものではないように思える。しかし、これらは特別なラグだ。余剰糸(インド産の綿糸とウール糸)を作ったため、同じ色のラグは2枚とない。このパターンは糸の色や量に関係なく使用でき、余剰糸は色調ごとにグループ化され、平編みする前にパターンに配置される。染色工程がないため、化学薬品や水の使用が削減できる。ラグの売上の一部はインドの職人たちに支払われる。

chair nr.2

©Malte Oing

Christina Looshornによるこの椅子は、使い捨て文化に異議を唱えるシリーズの一部だ。大量生産されたカンティレバーチェア(片持ち式の椅子。片側だけで座面を支える)の壊れた箇所を伝統的な藤の籠編みの技法で修復し、新しい椅子へと変化させた。かつては洗練さと機能美にあふれていた椅子は、いまやアシメトリーで不完全な印象を与えるが、自然とのつながりを感じさせる温かみのある彫刻となった。籐は成長が早く、比較的再生可能な資源と考えられている。

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Re-flat pack sofa

©Jisu Yoon

©Jisu Yoon

ソファのクッションの主素材として使われるポリウレタンフォームは、リサイクルが困難な場合が多く、最終的に廃棄されてしまう。この環境問題に対処するため、Jisu Yoonはポリウレタンフォームを使用しないソファを考案した。革新的なソファRe-flat packは、非常に弾力があるニッケルチタン合金(形状記憶合金)のワイヤーと3Dプリント部品で構成されている。接着剤を使用しないため有害な化学物質を排除でき、ソファの寿命が尽きたら、すべての部品は簡単に分解、分離、リサイクルできる。

このソファには、もう1つ優れた特徴がある。傘にヒントを得た折りたたみ式で、中央のコードで開閉できる。畳んだ状態だと運搬や引っ越しの際にスペースを節約できて便利だ。

Carpete Chair

©Janaina Cavalli

キュートな布製の椅子は、デザインスタジオVENETUCCIのSofia Venetucciと、舞台セットの廃棄物を活用するクリエイティブラボVirôのコラボレーションによって誕生した。シンプルなスチール製のベースにレーザーカットしたフェルトカーペットを重ね、金属製のネジ(ボルトと蝶ナット)で固定した。スチールとカーペットは、舞台セットの製作と設置の際に発生した端材だ。特殊な工具を使わず手で組み立てたり分解できるため、メンテナンス、修理、モジュール化が容易。

この共同プロジェクトでは本来なら廃棄されるはずだった素材の可能性を探り、平らなカーペットを立体的な要素へ変えるというアイデアが見事に成功した。
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ミラノ・デザインウィーク2026

2026年4月20日~26日

イゾラ地区のデザインフェスティバル 『No Space for Waste』
Isola Design Agenda – No Space for Waste | MDW26


岩澤里美
ライター、エッセイスト | スイス・チューリヒ(ドイツ語圏)在住。
イギリスの大学院で学び、2001年にチーズとアルプスの現在の地へ。
共同通信のチューリヒ通信員として活動したのち、フリーランスで執筆を始める。
ヨーロッパ各地での取材を続け、ファーストクラス機内誌、ビジネス系雑誌/サイト、旬のカルチャーをとらえたサイトなどで連載多数。
おうちごはん好きな家族のために料理にも励んでいる。
HP https://www.satomi-iwasawa.com/