人気のインターナショナルスクールが取り組むさらなる国際化 そこで語られる未来とは?

 近年、教育のグローバル化や英語教育の充実が盛んに叫ばれている。その中で、インターナショナルスクールの人気が、一般の日本人家庭の間でも高まっている。たとえば、東京・練馬区にキャンパスを構える「アオバジャパン・インターナショナルスクール」(小中高相当)では、2013年から今年までに生徒数が1.7倍に拡大。生徒の約半数が日本人で、都内各地にある系列のプレスクールや幼稚園も人気だ。また、同校では、今年度から国際標準のカリキュラムを提供するIB(国際バカロレア)教育を導入し、さらなる国際化を目指している。これに合わせ、去る4月14日、同校の生徒・教員が「教育の未来」を考えるシンポジウムを開いた。

 今、国際教育の現場で何が起きているのか、シンポジウムを取材するとともに、「インターナショナルスクール」を軸に考察した。

◆国際化へ大きく舵を切る日本の教育現場
 現在40代半ばの筆者は、小学校の前半と中学時代を親の転勤に伴って海外で過ごしたいわゆる元・帰国子女だ。1980年代の受験戦争・偏差値教育真っ只中の日本の学校と、カナダの現地校・イギリスの日本人学校をそれぞれ経験しているので、従来の日本的な教育と欧米型の教育、あるいは国際的な視点の強い在外の日本の教育の違いを体感的に理解しているつもりだ。今は、そうしたバックグラウンドもあって、帰国子女の受け入れ校を中心に、学校現場でグローバル化や英語教育について取材する機会が多い。

 戦後の日本の教育は、先生が話していることを静かに聞き、板書をノートに取って暗記するといった一方通行のスタイルが主流だった。それをしっかりとこなしていればテストでいい点を取ることができたし、それによって受験戦争を勝ち抜けば、いい会社に入っていい暮らしを一生保証された。社会の側から見れば、平均点の高さを競う大多数の「企業戦士」たちが、集団の力で高度成長期から近年までの日本を支えていたのだ。言い換えれば、強い個性や専門性といった「個の力」の強さよりも、集団の平均点の高さが強く求められる社会が、戦後の日本では長く続いていたのだと言えるのではないか。

 しかし、日本社会が成熟し縮小に転じると同時に、情報通信網の発達で世界が狭くなった今、個の力の結集により社会を牽引していく欧米型≒世界標準と違う道を歩むことが、難しくなってきている。その流れの中で、教育の世界でも、国や各々の教育機関がグローバルスタンダードな教育への転換を盛んに謳っている。実際、ここ3年ほどの間に取材したほとんど全ての学校現場で、中高一貫化やカリキュラムの抜本的な見直し、英語教育の充実、帰国子女・留学生の積極的な受け入れといった改革を実践・表明している。その目指すところのほとんどは、「生徒が自分で学習テーマを設定し、リサーチをして意見をまとめ、発表やディベートをする」といった自己探究型・双方向型の教育の実施だ。英語に関しては、英語を語学として文法から学ぶといういわゆる受験英語から、国際的な舞台で仕事や勉強をするための実用的なツールとしての英語力を身につける方向にシフトしつつある。

◆少子化でもインターの生徒数は右肩上がり
 そうした現在の教育改革の背景にあるのは、これからの社会を生き抜くためには自己表現力や専門性、英語力が不可欠だという考えだ。近年のインターナショナルスクール・ブームは、子供本人や親の多くもそう考えている証拠の一つだと言えるだろう。明日の我が身を考えれば、まだ過渡期にある日本の学校現場が変わるのを待ってはいられない。既に目の前にある「インターナショナル」を体現したインター校に人気が集まるのはある意味当然なのかもしれない。

 アオバジャパン・インターナショナルスクールがある光が丘キャンパスは、マンモス団地の一角にあり、廃校になった公立小学校の校舎をそのまま利用している。「光が丘団地」は、高度成長期から1980年代にかけて急激に発展し人口が増えたが、現在は高齢化が進み、学校の統廃合が進んでいる。そのなかで、アオバだけは生徒数が増え続けている。2013年には250名だった小中高の生徒数は、現在は440名。4年で1.7倍に増えた計算だ。外国人と日本人の内訳は、ほぼ半々で推移しており、在日外国人の増加とともに、少子化にあっても日本人の入学者も増え続けていることがわかる。2年後には光が丘キャンパスのキャパシティが生徒増に対応できなくなると見込まれており、小学校相当の初等部を都心に近いエリアに移転させる計画だという。

 教育内容もさらなる国際化に向かっている。アオバでは長年アメリカ型のカリキュラムを実践してきたが、今年度からさらに国際標準の教育を実施しようと、IB(国際バカロレア)による3歳から18歳までの一貫教育をスタートさせた。IBとは、国際バカロレア機構(本部ジュネーブ)が提供する世界共通の教育プログラムで、140以上の国と地域の4,784校で実施されている。「世界の複雑さを理解・対処できる生徒を育成し、国際的に通用する大学入学資格である国際バカロレア資格を与え、世界の大学への進学ルートを確保すること」を目的にしている。アオバでは、従来から「自分自身やその考えに自信を持つ」「理論的な意思決定を行う」「互いに共有する人間性を尊重し仲間になる」といったIBに通じる教育目標を掲げており、それをさらに国際的な視野で強化しようという狙いで導入した。

◆世界でも教育の変化は「今、確実に起きている」
 同校では、IB導入から約半年が過ぎたタイミングで、6年生から10年生のMYP(中等部)生を対象にした「教育改革シンポジウム」を開いた。世界的な変革期を迎え、生徒と教員が一緒に教育の未来を考えようという企画だ。生徒たちがグループごとに討論しながら、生徒・教職員代表らからなるパネリストに質問する形で進行した。通販大手Amazonの多様性受容プログラムの責任者、米ガールスカウト地域ディレクターといった外部のゲストも質問に答えた。交わされた主なQ&Aを紹介しよう。

Q. 学校は、幸せな人生を送るために必要な教育を提供しているか
A. 幸せかどうかはその人自身が判断するものであって、学校は、自分にとって幸せな人生とは何なのかを見つけるための機会を提供できる可能性がある場所だと思う。どういう時に幸せを感じるのか、自分は本当は何をしたいのか。学校はそういうことを一人ひとりの生徒が見つけることができる場所であるべきだ。

Q. 10年後の教育はどうなっているか
A. 今まで作り上げてきた教育の形を変えるのはとても難しいことだと思う。しかし、変えようと動き出している人たちがいる。これまでは、教育は学校、政府、先生など教育に関わる人だけのものだと捉えられていた。しかし、最近では、会社や病院などかつては教育とは直接関係ないと思われていた所ともつながっているという発想も出てくるなど、多様な考え方が受け入れられつつある。それがどのように起こっていくのかはわからないが、変化は今、確実に起きている。この力が教育システムそのものも動かし、変革を実現させると信じている。

Q. これからの社会では起業家や起業家精神が鍵を握ると思う。教育はそれを生み出していけるのか
A. 世界で何が起こっていて、どのような問題があるのかを、生徒は教育を通じて学ぶ。それが問題に立ち向かう方法を考えるきっかけになる。また、人は自分だけの利益を考えてしまいがちだが、教育を通じて今までの行いを振り返ることができる。何が問題で、どのように解決しようとしてきたのか、さらに長期的な視点で問題をとらえる力を養うことができる。

 世界中の子供たちが集まるインターナショナルスクールでこうした議論が活発に行われている一方、日本の教育現場は今、世界に広がりを持とうと脱皮を始めたばかりだ。今後しばらくは、グローバル化のトップランナーであるインターナショナルスクールに注目が集まり続けるだろう。

Text by 内村 浩介