イギリスが注目する日本とドイツの介護保険制度 「個人と国の責任を明確化にした」

 世界一の高齢化社会といわれる日本の一挙手一投足は、あとに続く先進諸国の注目を集めやすい。先日はニューヨーク・タイムズが、味も見た目も進化した日本の高齢者向け流動食を特集した。

 膨らみ続ける医療費など、緊急な対処を迫られる問題も多い。そんななか、日本やドイツのように介護保険を通常の医療保険から切り離した国もある。フィナンシャル・タイムズ(以下FT)によると、この両国は個人の責任と国の責任を明確化したとして、イギリスがその制度に注目している。

◆高額の補助金でも難しい介護
 イギリスでは健康保険制度ではなく、国民保健サービス(NHS)という国営のサービス事業によって医療費が賄われ、一部を除き基本的に医療費は無料だ。しかし、高齢者と障害者のケアが近未来に財政を圧迫すると危惧されている。

 FTによると、イギリスは「ドイツの状況をイギリスほど深刻ではない」とみている。ドイツでは、67才以上の人口が2040年までに2150万人に達するとみられており(2013年の42%増)、2015年末の時点では約290万人が介護を必要としている。

 ドイツの介護保険は1995年に導入された。2015年の時点では良好な状態で、310億ユーロ(約3.7兆円)の収入に対し290億ユーロ(約3.4兆円)の支出だったという。ただし徴収額は年々徐々に上がり続けている。導入時には賃金所得の1%だったのが、今年初めには2.55%になった。

 ドイツではコスト削減のために老齢者の自宅介護が奨励されている。ケアを必要とする290万人の4分の3が自宅で介護され、まずまず成功しているようだ。今年初めの制度改革ではまた、認知症患者を自宅で介護する場合の補助金が従来の約2倍の月1298ユーロ(約15万円)になった。しかし、認知症の場合は24時間体制の介護が必要で、家族1人が仕事をやめなければならなくなり、高額の補助金をもらっても自宅での介護には限界がある。

 また、前記の老齢人口の増加にともない、介護保険の徴収額は2040年には3.5%になると見込まれる。加えて通常の法的医療保険のほうも14.6%から19.2%に上がると予想されるので、負担はますます大きくなる(ケルン経済研究所)。

◆日本の状況は「ショッキング」
 日本の場合には、早い段階で従来のシステムでは十分ではないことに気づき、新たな保険の支払いについて「大衆を説得する手法」を身につけたことが成功のカギとして注目されているようだ。FTの記事では、将来の高額な医療費の心配から解放される介護保険を「公平な良い制度だと思う」と言う東京都の会社員の声が紹介されている。

 また、昨年、連合が介護休業制度に関して40歳以上の労働者を対象に調査した際、介護経験者のうち約28%が介護離職を考えたという結果にも言及。実際にはその一部しか離職はしないものの、その結果を「ショッキング」としている(FT)。

Text by モーゲンスタン陽子