模倣から始まった日本の男性ファッション、逆に本家を刺激する時代に 欧米で高評価

 西洋の模倣から始まった日本のメンズ・ファッションは、日本的な特徴が加味され、進化を遂げた。今や完璧な仕立ての紳士服や、クオリティでは世界の頂点に達したとされるデニムが、海外で絶大な人気を得ているという。本家を超えたメイド・イン・ジャパンが注目される理由を、海外メディアが報じている。

◆日本製の質に注目
 フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、ファッション通にとって日本製の紳士服は、細かな点まで配慮するクオリティ、前衛的なテクニック、そして恐ろしく高い値札を意味すると解説。それでも多くのデザイナーやショップは高額に見合う価値を認めており、メーカーや消費者も「メイド・イン・ジャパン」を求めていると述べる。

「カモシタ・ユナイテッド・アローズ」、「コモリ」などの日本のブランドを扱うロンドンの紳士服店「Trunk」のマッツ・クリングバーグ氏は、日本人は「境界を押し広げ、挑戦する。完璧な製品を作るために時間を掛ける」とし、想像できないような美しい製品は多くの場合日本製だと述べる。ニューヨークやロンドンで展開する有名ブランド「ケイスリーヘイフォード」の製品はほとんどが日本製だ。伝統的なサヴィル・ロウ・スタイルより軽い、新しい英国式の仕立てを打ち出すジョー・ケイスリー・ヘイフォード氏は、「スタイルを定めるエッセンスやDNAを失わず服を作れるのは日本人だけだ」とし、「どんな国を選んでも、日本人はその文化的エッセンスを再解釈することができる」と評価する(FT)。

 日本製デニムもまた、圧倒的な人気を得ている。ニューヨークのソーホーにある「Blue in Green」には、生地から縫製まで手間と時間をかけて作られた、日本の小さなブランドのデニム製品を目的に、熱狂的ファンが訪れるという(ニューヨーク・タイムズ紙、以下NYT)。ロンドンの高級紳士服ブランド「ティモシーエベレスト」は、世界最高品質とされる岡山で作られた、インディゴ染めの剣道着に使用される生地を採用し、ジーンズやジャケットを製造している。俳優のレイフ・ファインズなど、有名人も愛用しているという(FT)。

◆模倣からオリジナルへ
 世界に認められる日本の男性ファッションだが、その始まりは欧米の模倣であった。ファッションニュースサイト『ファッショニスタ』は、『Ametora: How Japan Saved American Style』の著者、W. デビッド・マルクス氏をインタビュー。1960年代に日本にアイビー・ファッションを広めた石津謙介氏を話題にし、同氏が日本の若者のファッションのベーシックスタイルを、プレッピーと呼ばれる米国アイビーリーグの若い大学生のスタイルに求めたことを紹介している。マルクス氏は、日本人は時を経て、単にアイビーリーグやアメリカンスタイルを模倣した過去から進化し、「アメトラ(アメリカン・トラディショナルの意)」という微妙で文化的に豊かな伝統にまで発展させたとしている。

 日本の織物会社で1979年から働き始めたアンドリュー・オラウ氏は、デニムもまた、1960年代はビンテージ・リーバイス・スタイルをモデルにしており、古い物の模倣がミッションであったと指摘する。しかし、次第にセルビッチ・デニム(特別な織機で織った生地の端の部分)やロー・デニム(洗い加工、防縮加工をしない生のデニム)が日本のデニムの代名詞となり、日米の伝統を混ぜ合わせた「エドウィン」、「エヴィス」などのメーカーが出現。現在では、複雑な工程を経て作られる「ヴィズヴィム」などの新興メーカーの商品が、高級品として人気を博している(NYT)。

◆西洋のフィーリングを残す日本製品へ
 若い日本のデザイナーは、すでに模倣には興味がない、と上述のマルクス氏は指摘する。「エヴィスジーンズ」のデザイナー、山根英彦氏は、「作りたいのは日本の子がアメリカのジーンズをはいていると感じられる商品。その気持ちは再現したいが、ただのリーバイスは作りたくない。カットや手触りの異なる、別のなにかを作りたい」と述べたという(ファッショニスタ)。

 マルクス氏は、デニムからストリートウェア・ブランドまで、日本の製品を通し、「アメリカン・トラディション」がアメリカに逆輸入されていると指摘。日本はアメリカに夢中だという単純な誤解があるが、日本人は日本の伝統として、今やアメリカの伝統を着こなしているのだと述べる。同氏は海外からファッションが逆輸入されることにより、アメリカ人がより自国を知ることになると述べ、元祖であるアメリカが、日本のファッションから大きな影響を受けていると指摘した(ファッショニスタ)。

Text by 山川 真智子