計画改め調査捕鯨再開も…欧米メディアは調査内容に興味なし? 報道から見える先入観

 水産庁は11月27日、南極海での調査捕鯨を再開すると発表した。調査捕鯨船団は1日に日本を出発する。南極海における日本の調査捕鯨は、2014年3月、国際司法裁判所(ICJ)より、調査目的に対して調査内容が適切ではないと結論付けられ、以来、日本は調査捕獲を行っていなかった。今回は、調査計画を改めた上での再開となる。捕鯨反対国や保護団体は早速、抗議の声を上げている。

◆調査捕鯨は商業捕鯨の代替との見方
 国際捕鯨委員会(IWC)は1982年に商業捕鯨モラトリアム(一時停止)を決定した。母船による捕鯨は85~86年漁期から、沿岸捕鯨では86年から商業捕鯨が禁止となった。当初、90年までにこの措置を見直すとされていたが、反捕鯨国が多数を占めるIWCによって、見直しは先送りされ続けている。

 ロイターや英ガーディアン紙は、日本が調査捕鯨を開始したのは1987年、モラトリアム発効の翌年からだったとして、調査捕鯨が商業捕鯨の代替であることを強くにおわせている。ブルームバーグは、日本は捕鯨を自国の伝統的な生活様式の一部だと考えており、調査捕鯨によって捕鯨船団の活動を保ち続けることができている、と指摘する。

 BBCも、日本の調査捕鯨について、鯨肉の販売が真の目的とみなされていることを伝える。純粋な学術調査の副産物の販売は国際法で認められているが、調査でもたらされた科学的証拠の量に比べて販売の規模が大きい点が、調査よりも販売が真の目的との証拠だとみなされている、と語る。

◆調査計画を見直して調査捕鯨に臨む
 反捕鯨国オーストラリアは2010年、日本の調査捕鯨が国際捕鯨取締条約違反であるとして国際司法裁判所(ICJ)に提訴した。ICJはこの訴えを認めた。日本経済新聞は、ICJは現行制度での調査捕鯨の中止を命じる判決を言い渡したと報じた。

 ブルームバーグは、日本がクジラを殺していることは科学的目的によって正当化され得ない、とICJが判断したとしている。またICJが、捕鯨が科学的目的であり、非致死的な方法では調査が不可能だと証明できないかぎり、日本は捕鯨を再開すべきではないとしたとも述べている。だが水産庁によれば、ICJの判決では、(その規模は問題視されていたものの)致死的調査の使用は調査目的との関係で不合理ではないとされていた。だとすればブルームバーグの報道には疑問が残る。

 一方、IWCの科学委員会は今年、クジラ種族の管理と保護に関する調査のためにクジラを殺害する必要があるとは確信していない、と発表したとAP通信は伝えた。

 ICJの判決などを踏まえ、日本は新計画でのミンククジラの捕獲調査の目標頭数を、従来の1000頭から、3分の1の333頭に減らした。また目視調査や皮膚標本の採取など、非致死的な調査も継続して行うとしている。なお従来の1000頭という数字も、実際にこれだけ捕獲していたわけではなく、あくまで目標であり、NHKによれば、実際に捕っていたのは100頭あまりだったそうだ。

 この調査計画で何が調査対象とされているかについて触れている海外メディアは少ない(AP通信は触れている)。うがった見方をすれば、調査というのはあくまで名目だという先入観から軽視されているのかもしれない。水産庁によると、ミンククジラの資源管理に必要な性成熟年齢の算出のために、各個体の年齢と、性成熟の度合いを調査することが目的だそうだ。そのために体内器官を取り出すなどの必要があるため、致死的調査が必須だとしている。なお性成熟年齢は環境条件によって変動するという。

◆オーストラリア、ニュージーランド、イギリスの強い反対
 オーストラリアなど、一部の捕鯨反対国は、日本のそういった主張に耳を貸すつもりは全くないようだ。日本の当局は、自分たちの計画は科学的に妥当と考えているが、反対派、とくにオーストラリア政府の怒りは静まりそうではない、とBBCは語っている。

 オーストラリアは商業捕鯨を認めていないばかりか、調査捕鯨も認めていない。「われわれはいわゆる『科学的調査』のためにクジラを殺すという考えを、いかなる形であっても容認しない」と、オーストラリアのハント環境相は28日の声明で語った(ブルームバーグ)。

 また再開という日本の判断について、ハント環境相は、「自分たちがIWCの科学委員会の疑義について適切に対処したかどうかを、日本が一方的に決めることはできない」とした。

 ニュージーランドも、マクレー外相代行が28日の声明で、南極海での捕鯨を止めさせるために「あらゆる選択肢」を検討すると発表した。

 ガーディアン紙、BBCによると、イギリス政府も日本の再開決定を非難している。イギリスの環境・食糧・農村地域省の報道官は、「われわれは南極海で捕鯨を再開するという日本の決定に深く失望している。このことは、イギリスが強く支持している商業捕鯨の世界的禁止を揺るがすものだ」と語ったそうだ。

 なお、シー・シェパードも日本の決定を非難しているが、共同通信がシドニー・モーニング・ヘラルド紙の報道として伝えたところによると、シー・シェパードは船の整備などのため、南半球の夏の間は、調査捕鯨船を追跡することはしない考えを明らかにしているという。

 ただ、思わぬところからその代役が登場するかもしれない。AP通信によると、オーストラリアのブランディス司法長官は上院で、日本に調査捕鯨を止めさせるための外交交渉が不調に終わった場合、税関国境警備局の巡視船の派遣を検討する、と発言したそうだ。船の用途については述べなかったが、AP通信は、違法行為の証拠収集を試みるということになりそうだ、と語っている。

◆日本が反論として集中すべきポイントはどこ?
 日本は反対派に対して、反対派は感情的になっており、クジラは持続可能な水産資源であるという科学的証拠を無視しているとして非難している、とガーディアン紙は伝える。オーストラリア政府などの反応を見ると、確かにそのように思わざるを得ない面がある。NHKによると、農林水産省は「反捕鯨国の反発の中には科学的な根拠に基づかないものもあり、日本として丁寧な説明を行っていきたい」としているそうだ。

 欧米メディアの報道で気になる点は、「ICJの判決(やIWCの決定)にもかかわらず日本が調査捕鯨を再開」という伝え方が決まり文句のようになっていることだ。それらの記事では、日本が調査計画を見直したことも伝えられているものの、本質的にこれまでの調査と変わりないもののように扱われており、新調査の科学的妥当性については話にも上がっていない。

 日本の調査捕鯨に対しては、これからもおそらく多くの反対が待ち受けているだろう。日本が捕鯨を続けるためには、調査捕鯨の科学性をアピールし続け、またその調査を通じてクジラの水産資源としての持続可能性を証明していくことが必要と思われる。毎日新聞によると、日本は今回の調査結果を来年6月のIWC科学委員会に報告し、科学的な議論を行う予定とのことだ。

Text by 田所秀徳