Pepper暴行事件は「人間vsロボット」の先駆け?海外が事件を大きく報道

 神奈川県のソフトバンクショップで6日、酒に酔った男が店員に腹を立てた末、店内に置いてあった人間型ロボット「Pepper(ペッパー)」を蹴って破損させたとして、器物損壊容疑で逮捕される事件があった。このニュースを伝えた共同通信の英文記事は、分量としては小さなものだったが、海外メディアに大きな反響を呼び起こした。器物損壊事件というよりも、人間によるロボットへの「暴行」というスタンスで報じているメディアが多い。なかには、ロボットに対する恐れに根差した事件かもしれない、と考察した記事もあった。

◆「店員の態度が気にくわなかった」男がPepperに八つ当たり
 事件があったのは、横須賀市のソフトバンクショップ。酒に酔った60歳の男が、店員の態度に腹を立てて暴れるなどした末、Pepperを蹴ったという。スポーツニッポンのニュースサイト「スポニチ Sponichi Annex」(7日)によると、店員はその時、奥に避難しており、店員にけがはなかった。共同通信(6日)によると、男がPepperを蹴る様子が防犯カメラに映っていたそうだ。店側によると、Pepperは倒される前よりも反応が遅くなっており、機械内部も故障している可能性があるという。7日のテレ朝ニュースは、Pepperは一時動かなくなったが、今は正常に起動しているとの情報を伝えている。

◆Pepper は人間の感情を理解するロボット
 英テレグラフ紙やUK版WIREDは、ソフトバンクと共同でPepperを開発したアルデバラン社のウェブサイト上の説明を引用し「Pepperは、一般的な感情(喜び、驚き、怒り、疑い、悲しみ)の知識と、人の顔の表情、ボディー・ランゲージ、話す言葉を分析する能力を用いて、人間の精神状態を解釈することができます。彼はあなたの気分を推測し、それに合わせようとさえします。例えば、彼はあなたのお気に入りの曲を演奏することで、あなたを元気づけようとするでしょう」と説明。

 Pepperは一般販売の人気も高い。香港のサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙(SCMP)によると、ソフトバンクは毎月1000台のPepperを発売しており、来年から世界販売を開始するために、中国のアリババ・グループと共同作業を行っているとのことだ。ソフトバンクのプレスリリースによれば、6月の一般発売開始以来3ヶ月連続で、1分で完売したそうだ。

◆Pepperの感情認識機能も今回の怒る客には通ぜず
 いくつかのメディアは、Pepperの感情認識機能に絡めたジョークを記事に織り交ぜている。米フォーチュン誌は、Pepperが人間の感情を理解し、反応するよう設計されているけれども、怒っている顧客の激しい殴打を免れるには、この洞察力は十分なものではなかったようだ、としている。

 テレグラフ紙も、Pepperは人間の感情を認識し、反応することができるが、このPepperが憤慨して蹴られたことに反応したかどうかは不明である、としている。

 SCMPは、Pepperは人間の感情を理解するよう設計されているが、開発者は将来のバージョンでは突発的な暴力を予測するようプログラムし、速やかに窮地を脱する手段を装備させる必要があるかもしれない、としている。

◆8月にあったもう1つのロボット襲撃事件
 8月にアメリカでも人間型ロボットが襲われる事件があり、ネットなどで話題となった。それが、数多くのメディアが今回のPepper事件に注目した理由の一つである。

 被害に遭ったのは、「ヒッチボット」という名前のヒッチハイク・ロボット。ロボットといっても、自力で動く機能はなく、行き会った人に車で運んでもらうだけである。人工知能や音声認識機能、通信機能は搭載されていた。

 ヒッチボットを製作したのはカナダの2大学の教授らのチーム。CNNによると、パフォーマンスアートとソーシャル実験の目的で企画したそうだ。AFPによれば、旅の目的は「ロボットは果たして人間を信用できるのか」という問いの答えを出すことにあるという。製作者の1人はAFPに、人間社会は通常「ロボットを信用できるかどうか心配している」と語っている。フォーチュン誌によると、ヒッチボットはテクノロジー(ロボット)に対する人間の信頼を調査する方法として企画されたという。

 フォーチュン誌やAFPなどによると、ヒッチボットの旅は、カナダやドイツ、オランダでは成功裏に終わった。しかし、アメリカの旅に入って2週間経ったところで、何者かに破壊され、旅は終わってしまったという。テレグラフ紙によると、ヒッチボットは頭と腕がもぎ取られた状態で見つかったそうだ。WIREDやフォーチュン誌はこれを心無い破壊だと批判。

 WIREDは、ヒッチボット「死亡」のニュースは、Twitter上で感情のほとばしりを引き起こした、と述べる。そして、人間がロボットに感情移入するのは自然なことだ、とのMITメディアラボのロボット倫理学の専門家ケイト・ダーリング氏の主張を伝えている。人間は擬人化されたものを生まれつき好み、また自主的に動けるものに反応するという生物学的な傾向があるためだそうだ(ヒッチボットは動けないが)。

◆ロボットは友達? それとも……
 WIREDは、今回被害に遭ったPepperに対して非常に“同情的”である。Pepperのことを、「ただ手助けをしようとしていたかわいらしいロボット」「人間の友達になろうとしていたごく普通のロボット」とおどけて表現している。また、店員が無傷で済んだことは特筆すべきだろう、と述べ、それがPepperのおかげだったかのように伝えている。

 そして、今のところは、人間よりもロボットに怒りをぶちまけるほうがましかもしれない。だが、数年以内に形勢が逆転して、ロボットが人間の上に立つようになったあかつきには、もう少し優しさと敬意をもって接しておけばよかったと思うようになるかもしれない、と冗談交じりに述べている。

 この「人間VSロボット」という見方をさらに強調しているのがフォーチュン誌だ。同誌は今回の事件を「反ロボットの暴力行為」と語る。より多くのロボットがわれわれの生活に入り込むにつれて、その中のいくつかは暴力的な反発に遭遇している、としている。

 今回の事件やヒッチボット事件は、テクノロジー(ロボット)が人間にとって代わるという古くからの恐れに原因があるのかもしれない、と同誌は語る。また今回の反ロボット事件は、テクノロジーへの恐れが、一部の人に暴力を誘発させる可能性があることを示している、と主張している。

Text by 田所秀徳