米国、4人に1人が産後2週間で職場復帰 日本と異なるやむを得ない事情とは?
日本ではいわゆる「マタハラ」が問題となっているが、先進国であるはずの米国では、有給休暇がない、もしくは少ないがために4人に1人の働く女性が出産後2週間で職場に戻るという深刻な問題が起きている。
政治雑誌「イン・ディーズ・タイムズ」が2012年のデータを元に行った調査によると、ワーキングマザーのうち出産後7日以内に職場復帰したのは12パーセントで、1~2週間以内は11パーセントだった。合計して23パーセントの女性が、出産してわずか2週間という短期間で職場復帰していた。
学歴による格差も深刻で、6週間以上の休みを取った女性たちの割合は大卒以上で80パーセント、大卒未満では54パーセントだった。
そもそも出産後2週間の労働は危険ではないのだろうか?アルジャジーラのコラムではこのデータを受け、「出産後、歩けるようになるまでに10日かかった」という女性など、複数の出産経験者のコメントを紹介した。たとえ安産だったとしても、数週間前に縫った傷口や睡眠不足、精神的疲労を抱えたまま長時間座って(もしくは立って)仕事をし、常に同僚と話し、職場の共有トイレを使うことは「身体的拷問」のようだとコラムニストは非難している。
◆有給休暇が法律で義務付けられていない先進国
米国は有給休暇の付与が法律で義務づけられていない。50人以上の従業員を雇っている民間事業主に適用される「育児介護休業法」では、出産の際に最長12週の休暇が認められるものの、これは無給だ。よって12週間の収入を失う余裕のない家庭の女性たちは、無理にでも職場に復帰しようとする。場合によってはすぐにでも戻らないと、経済的に困窮するからだ。
米労働統計局によると、育児や家族の世話などをするための「家族休暇」が付与されている労働者は全体の13パーセント。このような待遇の有無は労働者が働く企業や収入、組合に加入しているかどうかなどで大きく左右される。
◆大企業のトップも産んですぐ仕事、「見本にならない」との批判も
では大企業や高収入の職を持つ女性は安心なのだろうか。8月31日に米ヤフーのマリッサ・メイヤーCEOが12月に双子を出産予定だと明らかにすると、産休・育休の議論は再燃した。彼女は2012年の出産の際、わずか2週間で復帰しているからだ。ヤフーのトップが2週間しか休めないのであれば一般の女性たちに希望はない、企業のトップとして良いロールモデルではないとの落胆の声も聞かれた。メイヤー氏はその翌年に同社の育休(もちろん有給)を8週から16週に倍増しているが、同氏が今年12月から16週間休む可能性は低いだろう。
◆米国以外の育児休業事情
育児休業でよく引き合いに出されるスウェーデンでは、16ヶ月の有給の育休を両親で分けることが可能だ。この期間には父親が取得しなければ消滅する3か月分も含まれており、男性も育児に参加する前提で設定されている。
一方の日本はどうだろうか。現行の育児休業制度では、育休開始後180日までは休業前賃金の67パーセント、その後は最長1歳半までは休業前賃金の50パーセントが手当てされるが、収入が約半分になるため、多くの人は1年以内での職場復帰を考えざるを得ない。父親が取得した場合も180日間の間67パーセントが支払われる仕組みとなっているが、そもそも育休を取る男性が少ないため、活用する人はかなり限られているだろう。厚生労働省の「平成26年度雇用均等基本調査」によると、育児休業取得者の割合は女性が86.6パーセント(前年度比3.6ポイント増)で、男性は2.3パーセント(同0.27ポイント増)で、男性については微々たる差だが前年より上昇した。育休に関して日本は法律面では米国より整ってはいるものの、復帰するにあたり子どもを預ける場所がない、もしくは昇進が難しくなるなど課題も多い。
◆早急な法整備が必要
米国ではホワイトカラーではない職に就いている女性の出産は仕事を懸けたリスクになり、想定外の難産や子どもの病気などで、収入、もしくは職を失ってしまうと貧困のスパイラルに落ちかねない。いわゆる日本の「ベビーカー論争」のような「出産後の苦悩」のエピソードは日本ほど聞かないが、出産することにより収入を失い困窮するリスクは米国の方が高いといえる。人口の少ない北欧の国の制度のようにはいかなくとも、まずは有給休暇、そして産休・育休の法制化が急務といえる。