出生率アップと女性の社会進出推進の矛盾:海外識者、日本のウーマノミクスを考察
「ウーマノミクス」は、少子高齢化の進む中、働く女性を増やし、労働人口減少を食い止め、経済成長につなげようという安倍首相が打ち出した政策だ。その実効性や現状について、海外のメディアや識者から様々な見方が出ている。
◆経団連も女性登用に着手
アメリカン・エンタープライズ研究所の研究員、マイケル・オースリン氏は、「“ウーマノミクス”での日本のギャンブル」と題し、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)に寄稿。安倍首相が2020年までに25歳から44歳の女性の就労を5%アップさせることを目指し、女性管理職の割合を少なくとも30%にまで引き上げるという野心的なタ目標を設定したと述べる。
実際のところフィナンシャル・タイムズ紙(FT)によれば、日本の女性管理職の割合は政府の最新の発表で8.3%。アメリカの40%と比べれば、圧倒的に少なく、日本経団連に属する1300社においても、女性の上級管理職はたったの16人だという。
「ウーマノミクス」を成功させたい首相の意向を反映したのか、経団連は先月、外資系通信サービス会社「BTジャパン」の吉田晴乃社長を初の女性役員として選出。「男性中心で保守的なイメージ」の経団連から、自分に声がかかったことが信じられなかった(FT)という吉田氏は、6月に経団連で最も若い役員かつ、初の女性副議長に任命される予定だ。
◆経済再生は女性だけに期待してもダメ
一方、首相が求めるような女性全般の社会進出は、あまり進んでいないようだ。エコノミスト誌は、今年のグラスシーリング指数を発表し、女性が働きやすい国をランキング化している。労働参加、賃金、子育て費用、妊娠時の権利、管理職への登用などをもとに算出され、OECD加盟国から選択された28か国が対象となっている。上位はフィンランド、ノルウェー、スウェーデンのスカンジナビア諸国。日本は韓国に次いで下から2番目というお粗末さで、新興国トルコにも及ばなかった。
オースリン氏は、日本における女性の社会進出の必要性は、2060年には人口が8700万人にまで減少し、国民の40%が65歳以上になると予測される少子高齢化を踏まえたものだと説明。働く女性を増やせばいくらか問題は緩和されるだろうが、出生率上昇には問題だとする。その理由は、政府が社会参加のターゲットとする25歳から44歳の女性は子育て期にあるからで、むしろ子育て後の女性の就労にフォーカスしたほうが賢明ではないかと同氏は述べる。
そもそも安倍政権が女性の社会進出を求めたのは、経済活性化のためだとオースリン氏は指摘し、数値目標を掲げることは、企業の効率性や競争力自体には関係ないと述べる。そして、女性だけに解決を求めるのではなく、起業を促し、減税や規制緩和で企業の競争力を高め、100万人はいると言われる、学校にも行かず仕事もしていない多くの若者を労働市場に呼び戻したり、移民を受け入れることも選択肢としてあるべきだと説いている。
◆少子化は女性だけの責任ではない
子育て世代の女性を社会参加のターゲットにすべきではないというオースリン氏の意見に、ロングアイランド大学で保健医療、行政学を専門とするローレン・ボック・マリンズ教授は大きく異議を唱える(WSJ)。
同教授は、世の中には仕事と子育てを両立し成功している女性がたくさんいると主張。出産を終え、仕事の最盛期を過ぎたときにキャリアを求めよという考えは、女性のチャンスや権利を奪うものだと述べる。
さらに、あたかも出生率低下が女性だけの問題であるかのように、男性についてはなにも述べず、生殖と経済的機会を競わせて女性を標的にするような、功利主義的悪質ドックブリーダー並みのオースリン氏の考え方は、数十年に渡る女性の権利の向上に無知であると指摘。女性は「ボードルーム(役員会議室)」より「ベッドルーム」を利用した方がよいと言えるわけはないと憤り、市民社会としての進歩を求めている。