橋下市長VS在特会代表、海外報道は呆れ気味 大阪市のヘイトスピーチ規制の可能性に注目も

 橋下徹大阪市長と、在日特権を許さない市民の会(在特会)会長、桜井誠氏によるヘイトスピーチをめぐる議論の場が20日に持たれた。正味10分も持たず終了となった議論の動画は国内で多くの視聴を集めたが、どうやら海外でも注目されたようだ。

◆一触即発の事態に発展
 この議論は「意見交換」と銘打たれていた。しかし、交換されそうになったのは拳だった、とウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じている。同紙は橋下氏について「忌憚ない発言で知られる人物」と紹介し、対する桜井氏についても「在日韓国人朝鮮人に対する過激な言動で有名」と伝えている。

 アクの強い両者の対決は、開始後すぐに不穏な方向へと進んだ。まず桜井氏は出端から橋下氏に対し「あんた」「お前」と不遜な呼び方を続け、橋下氏が「民族とか国籍を一括りに中傷する発言はやめろ」と述べると、桜井氏は「朝鮮人を批判することがいけないのか」と応酬。これに対して橋下氏も「うるせえお前」と言い出したことをきっかけに、桜井氏が立ち上がり橋下氏に詰め寄った。あわや暴力沙汰の展開が懸念されたが、即座に警備が制止に入り、二人を引き離した。それに対しても桜井氏は「なんだこの警備は。男なら1対1で闘えよ」と批判。その後も橋下氏が「差別主義者は大阪にいらない」と言うと、それに対し桜井氏は「民族を一括りに批判するのが差別なら韓国人朝鮮人はみんな差別主義者か?」と返すなど話は噛み合ないまま、わずか10分足らずの後、互いに「帰れ」の応酬にて唐突に幕を閉じた、と同紙は伝えている。

 英ガーディアン紙は、このあまりにも短時間で終了した直接対決について、「橋下市長が在特会との議論に応じたことには多くの者が驚いたが、期待された議論がここまで短いものになると予想できた者も少なかっただろう」と伝えている。

◆安倍政権が嫌韓促進の原因?
 7月に大阪高裁は、京都の朝鮮学校に対して在特会が行ったデモは人種差別に値すると判決を下した。8月には国連社会規約委員会が、こうした運動に対する改善措置を取るよう日本政府に勧告した。こうした流れを英エコノミスト誌は「安倍政権にとって頭の痛い問題」と述べている。

 日本には、帰化していない韓国人、朝鮮人がおよそ50万人おり、彼らに向けたヘイトスピーチはこうした人たちが多く在住する大阪の鶴橋や東京の新大久保で頻発している。これまでのところ、際立った暴力行為には至っていないものの、いつそうなっても不思議ではないという危惧はある。しかしこうしたデモが言葉のやり取りに留まる内は、警察がとくに積極的に動くことはない。

 そのため、2020年東京オリンピックに向けて日本の印象向上が必須の政府は今、何か手を打たなくてはいけないというプレッシャー下に置かれている。しかし安倍首相が対外イメージを改善しようとしているにもかかわらず、そのメッセージは今ひとつ世界に届いていない、と同誌は指摘する。そもそも日本で急に嫌韓気運が高まったのは、安倍氏が再び政権についたことと関係がある、と右翼団体『一水会』の鈴木邦男氏は同誌に語っている。ナショナリストの安倍首相およびその仲間達は、ヘイトスピーチについても奥歯にものが挟まったような批判しかしていない、と鈴木氏は言う。

◆差別か、言論の自由か
 東京都知事の舛添要一氏は安倍首相に法整備を訴えている。はたしてヘイトスピーチは、法規制されるべきなのか。

 もしもヘイトスピーチを罰する法案が適切に作成されないとなれば、表現の自由を損なう可能性があると懸念する声は多い。エコノミスト誌は、自民党の高市早苗氏が「国会周辺のデモに対してヘイトスピーチと一緒に法規制したらどうか」と発言し問題になったことを伝えている。

 しかしガーディアン紙は、在日韓国人朝鮮人の多い大阪市について「憲法が保障する言論の自由に抵触する可能性にもかかわらず、ヘイトスピーチを禁じる最初の市となるかもしれない」と伝えている。

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Text by NewSphere 編集部