IAEA「基準値以下なら、汚染水を海へ」 東電は決断できるのか?

 国際原子力機関(IAEA)は4日、10日間に及ぶ査察の後、福島第一原子力発電所の事故処理は進展していると評価した。理由として、事故機の燃料棒取り出し作業が開始され順調に進んでいること、汚染水の漏洩が減少し以前よりも管理が行き届いていることを挙げた。しかし、完全な廃炉への道のりは「非常に険しい」とも判断した。

 また、福島第一原子力発電所を管理する東京電力が、高濃度の汚染水をこれ以上貯蔵できない現実を踏まえ、低濃度の汚染水を海に放出するよう同社に助言した。査察団代表のフアン・カルロス・レンティホ氏は、「管理された低濃度汚染水の放出は、世界中の原発施設で行われている」と発言した。しかし、汚染水の海への放出は、周辺の漁業関係者と住民から強い反対を受けている。

【汚染水の海上放出は不可避か】
 レンティホ氏は、「状況は依然として非常に複雑で、廃炉までには解決されるべき多くの難問が残されている」と事故処理対応の難しさを指摘した。BBCは、特に大きな問題は汚染水だと報じている。東京電力は現在、汚染水処理のための施設をひとつ建設したが、さらにあとふたつ建設予定だ。

 政府が設置した汚染水処理対策委員会は3日、高濃度の汚染水は多核種除去装置ALPS(アルプス)を使用すれば、7年ほどで浄化できるとの試算を発表した。しかし、処理後のトリチウムが残存した低濃度の汚染水は、2年間で70万トンを超えることになるだろうとも予測している。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、原子力規制委員会の田中俊一氏の「永遠に汚染水を貯め続けることはできない。さらに大きな危険を回避するためにも、(汚染水放出を)決断しなければいけない」との発言を報じている。

 トリチウムの半減期は12年。核分裂によって発生するが、自然界にも普通に存在する。水の構成分子のひとつで、これを水から分離することはほとんど不可能だという。

 なおIAEAは汚染水の海への放出について、安全指針に沿って行い、東電は放出の前に、安全性についての査定と環境に与える影響についての専門的調査結果を報告すべきだとしている。

【東電は広く協力を求めるべき】
 IAEAは、福島の原発事故処理は進展していると評価したが、完全な廃炉には40年かかると言われている。

 ガーディアン紙は、管理者の東京電力により繰り返される失態が、事故処理作業を遅らせる結果になっているとして、同社に前代未聞の難題を解決する能力があるのか疑問視している。そして、事故処理を世界的な専門家チームに引き継いではどうか、と提案している。9月に福島県沖の汚染調査に参加した海洋化学者のケン・ビュッセラー氏も、「(東電はこれまでも)数多くの過失を犯していて、もっと公に助けを請うべきだ」「東電は、原子力発電所を操業する電力会社で、原発事故の処理業者ではない」と述べたという。

 東電はこのような意見を受け、9月に独立した原子力改革監視委員会を設置した。元米国原子力規制委員会(NRC)委員長のデール・クライン氏を委員長に置き、英国原子力公社名誉会長のバーバラ・ジャッジ氏などが参加している。

 スリーマイル島原発事故で対応にあたった元NRCのレイク・バレット氏は、「繰り返される汚染水漏れの報道で、東電への信頼が大きく揺らいでいる。放射能レベルがごく僅かであったとしても、廃炉への重要な作業を進めることが東電には無理なのではと、人々は不信の念を抱いている。このことが、東電にとってなによりも問題だ」と述べた。

Text by NewSphere 編集部