睡眠トラッカーは正確? これまでの研究で判明していること

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著:Matthew Reidオックスフォード大学、Research Officer, Sleep/Wake Research Centre, College of Health)

睡眠に満足していない人の割合は、およそ3人に1人とされる。そのため、十分な睡眠に対する関心が高まっていると聞いても驚きはない。そんな中、一晩で何時間眠ったかを測定する「睡眠トラッカー」が人気を集めている。

私たちは寝ている間、「深い眠り」、「浅い眠り」そして「レム睡眠」の状態にある。深い眠りという段階があるために、翌朝に気持ちよく起きられるのだ。多くの睡眠トラッカーは手首に装着する腕時計タイプで、身体の動きをモニタリングすることでおおよその睡眠時間と覚醒時間を測るようになっている。寝ている間の心拍数の動きを確認することで各睡眠サイクルの時間を測る機器もある。

睡眠トラッカーの人気が高まっているにもかかわらず、どの程度正確な計測ができるかを調べた研究はほとんどない。これまでの調査によると、「睡眠ポリグラフ検査」という睡眠障害の診断に専門家が使用する検査と比較した場合、睡眠トラッカーが睡眠と覚醒を判別する時間の正確性は78%にすぎない。実験の参加者が睡眠状態になるまでにかかった時間の計測になると、正確性は約38%に低下する。

対象者が眠っている間、皮膚や頭皮に装着された電極を通して脳波、心拍数、呼吸、血中酸素濃度、身体と眼の動きを追跡する睡眠ポリグラフ検査がもっとも正確であるとされている。その人が起きているのか眠っているのかを把握し、睡眠のどの段階にあるのかを知る唯一の決定的な方法は、脳波のパターンを分析することである。

一方で睡眠トラッカーは手首に装着して、身体の動き、時には心拍数のデータを測定することで夜間の睡眠時間を推計している。どの段階であれ、私たちは寝ている間に頻繁に身体を動かすため、その動きだけでは睡眠のどの段階にあるかを示す手がかりはほとんど得られない。多くの睡眠機器についても、身体の動きだけでどの睡眠段階にあるかを判別することはできない。

十分な数の消費者向け睡眠機器と睡眠ポリグラフ検査が比較されていないことからすると、両者の正確性を判断するのは困難である。また、睡眠を計測するために各メーカーが使用しているアルゴリズムが不明であるため、睡眠トラッカーで採用されている前提が有効なのかを科学者が特定することも難しい。

不眠症の場合、睡眠機器がうまく機能しないことも研究で明らかになっている。不眠症の人は眠ろうとしている間、ベッドの上でじっとしていることが多い。しかし、ある調査によると、睡眠トラッカーは身体の動きしか測定しないため、不眠症の人が起きている状態と眠っている状態を区別することができなかった。

心拍数データが組み込まれている時計は、睡眠時間をより正確に測定できる傾向がある。睡眠の段階が変わると心拍数も変動するからだ。ただし、心拍数を計測する機器であっても、多くの専門家はその正確性に確信を持つことができないでいる。機器に関する研究が少ないのと、機器によってばらつきがあるというのがその理由である。たとえば、心拍数を計測する睡眠トラッカーに関するある研究によると、別の消費者向け機器を使った際、装着者が深い眠りの状態にあった時間に46分もの開きが出た。

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◆睡眠時の不安
結局のところ、睡眠について知ることにメリットがあるかどうかが問題だ。つまり、目を覚まし続けるために一番いい方法は懸命に眠ろうとすることである。そう聞くと直感に反するようだが、この状況は医療の現場で慢性不眠症を患う患者の間で観測される。彼らにとって、眠ることを過剰に意識しすぎるとそれが心配の種となり、眠れないで気分が落ち込むともっと眠れなくなってしまう

私たちの研究グループがまとめた論文では、睡眠計測用時計を着けるとこうした効果が増幅されることが示された。実験参加者に睡眠計測用時計を貸与し、1日のうちの決まった時間にその時の気分、日中の思考プロセス、眠気の状態を報告するよう求めた。しかし、時計からもたらされる「睡眠スコア」は事前に操作されており、睡眠の質が向上した、もしくは悪化したと表示されるようにした。両方のグループとも、睡眠の時間と質は同じ程度だった。

この調査では、夜の睡眠が不良だったと伝えられた人の気分は落ち込み、日中の思考プロセスが困難になり、眠気が増したことが明らかになった。夜ぐっすり眠ることができたと伝えられた人たちには、逆の徴候がみられた。

つまり、睡眠トラッカーから発せられたデータによって、日中の感情や集中度を変えられる可能性があるのだ。たとえ読み取った値が正確であってもそれが当てはまる。睡眠障害に悩む人ほど睡眠トラッカーを使用する可能性が高いことからすると、この機器は精神の健康を損なう可能性があるという懸念が残る。

この関係性を調べた研究はこれまでにほとんどないが、ある報告によると、睡眠トラッカーから得られる情報をもとに睡眠障害とみられる症状を治してほしいと考える患者がたくさんいるという。たとえこうした要望が睡眠ポリグラフ検査によって否定されても、睡眠にまつわる不安が睡眠トラッカーによって引き起こされる。運動用などのウェアラブル機器を多用しすぎると健康への不安やうつ症状が増幅されるという研究成果もあるため、睡眠機器についても同じような影響がもたらされる可能性がある。

おおむね良好な睡眠が取れているけれどもトラッキングに関心がある、もしくは日常のルーティンを改善したいという人にとっては睡眠機器が役に立つ可能性がある一方、睡眠状態が不良であったり精神状態が悪かったりする人は避けた方がいいかもしれない。だが自身の睡眠が良好であるかを測る最良の指標は、日々の気分を確認することだ。疲れが溜まり集中することができなければ、毎晩少し早めに就寝すると落ち着いた気分になれるだろう。そのとき、睡眠機器は必要ない。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by Conyac

The Conversation

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