ハリウッドの常識覆した『ラ・ラ・ランド』、その魅力とは?

 ミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』が、映画界に旋風を巻き起こしている。今年度ゴールデングローブ賞で歴代最多7部門受賞、アカデミー賞で史上最多タイの14ノミネートを受け、今年最高の映画とも評されている。「実写ミュージカルで大ヒットは狙えない」という昨今のハリウッドの通説を打ち破った本作品。その魅力は一体どこにあるのだろうか?

◆音楽で綴る、ハリウッドの夢と現実
『ラ・ラ・ランド』は、ロサンゼルスに住む売れないジャズ・ピアニストのセブと、カフェで働きつつ女優を目指すミアが出逢って恋に落ちる物語だ。舞台の設定は現代だが、古き良き時代のロサンゼルスを感じさせるノスタルジックな雰囲気があることから、往年の名作ミュージカル映画と比較する批評家も多い。

『ラ・ラ・ランド(原題:La La Land)』が意味するのは、文字通りロサンゼルス、そしてハリウッドだ。英メトロ紙によれば、ロサンゼルスに映画産業が生まれたのは1900年代の初めで、当時の中心地ニューヨークは寡占状態にあり、独立系の製作者たちが自分達の映画を作るため、ハリウッド近辺に移り住んだのが始まりだという。後に多くの映画会社がこの地に集まったため、バーやレストランはたくさんの映画スターたちでにぎわい、「Tinsel Town(金ぴかの街)」として知られるようになった。タイトル『ラ・ラ・ランド』が意味するものは、「名声とスターダム」であり、現実から離れ常に夢を追い幻想を見つめる人々の心だと、同紙は説明している。

◆業界の通説を覆した異例のヒット
 エンターテイメント業界誌バラエティは、「客は突然歌で始まる映画は見たがらない」というミュージカル映画に対する批判がこれまであったと述べ、ディズニーアニメを除き、近年成功したミュージカル映画はあまりなかったと述べる。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)も、2001年にヒットしたミュージカル映画『ムーランルージュ』の予告編は客がミュージカルとわかって引いてしまうのを恐れるあまり、歌のシーンを極力避けていたと指摘。いかに売りにくいカテゴリーだったかを説明している。

 しかし、1年前なら実写ミュージカルは「終わっている」と言っていただろうハリウッドのほとんどの映画会社が、『ラ・ラ・ランド』の成功に興奮しているとNYTは述べる。製作費3000万ドル(約36億円)で作られたこの映画の興行収入は、業界誌デッドライン・ハリウッドによれば、すでに世界で3億ドル(約360億円)を超えている(2月15日現在)。人気ブロードウェイ・ミュージカルの映画版ではないオリジナル作品としては異例の好成績なのだ。

◆勝因は素人ダンス?若い世代の感覚も影響
 ロサンゼルス・タイムズ紙(LAT)は、『ラ・ラ・ランド』成功の理由は、男女が出逢って恋に落ち、2人が踊るとき魔法が起こるという、実に明快なミュージカル映画の方程式を、エマ・ストーンとライアン・ゴスリングというダンサーとしては素人の俳優を通して表現したことだと述べる。2人が目と目を合わせ、一つ一つのステップ、足の振り、腕の動きに込めたメッセージは、プロのダンサーよりも人間味があり、とてもチャーミングだと評している。トニー賞を受賞した作詞作曲家のマーク・シャイマン氏も、歌って踊るストーンとゴスリングはとても自然で、従来のミュージカルらしくない点が見る側に受け入れられたのではと述べている(バラエティ)。

 もう一つの理由は、観客側の変化だ。『ラ・ラ・ランド』の作詞家、ベンジ・パセック氏は、彼らの世代はディズニーアニメなどで歌を通してストーリーを語られるのに慣れていると述べる。また、プロデューサーのマーク・プラット氏も、新しい世代のファンは、『グリー』などのテレビ番組で育っており、見る側のミュージカルに対するハードルが下がっているのではないかと述べている(NYT)。

 楽曲の良さも大きな魅力のようだ。NYTによれば、インスタグラムやフェイスブックでは、エマ・ストーンが映画の中で歌う曲、「オーディション」を若いファンが歌って投稿するのが流行っており、これは決して配給会社の仕込みではないという。ビルボードのトップ200チャートでも最高位2位を記録し、現在もトップ20に入っている(2月15日現在)。

 日本では2月24日に公開予定。最近は邦画が話題を独占中の日本市場で、異色のミュージカル映画が受けるのかどうか気になるところだ。

Text by 山川 真智子