若者よ、芸術を買おう! アートのある生活のメリットと購入のポイントは?

 自宅の壁に気に入った本物の芸術作品を飾る。そんなプチ贅沢が海外で提案されている。アートと言えば有名なオークションハウスを想像するためか、富裕層のものと思われがちだが、低価格で手に入れられる作品もたくさんある。何十年も前に安値で購入された作品に想像を絶する高値が付くこともあり、投資としての側面も注目されている。

◆アートは高い? でも富裕層である必要はない
 アートコレクターのためのサイト『ARTmine』は、オリジナルのクオリティが高い芸術作品を買うために億万長者である必要はなく、ニューヨークなどの大都市でも手ごろな値段の作品を扱うギャラリーはたくさんある、と述べる。ポスターなどの大量生産されたアートに比べてオリジナルにはお金も時間もかかるが、世界にたった1つの作品を飾ることは、たとえそのアーティストが有名でなくとも、豊かな気持ちや自分らしさを住空間に与えてくれる、と語る。

 アートのオンライン取引を手掛けるArtnetのジャクリーン・タワーズ-パーキンズ氏も同様の意見だ。同氏によれば、版画など枚数限定で作成された作品なら、国際的に有名なアーティストの作品でも1000ドル(約11万5000円)以下で入手できることもあるという。少し高いと思っても、この先長く楽しめるお気に入りの1枚を買えるのだから、外食代を少し削って予算を増やす価値はあるだろうと述べている(Yahoo Finance)。

 また、ネットなどで気軽に作品を購入できるようになってきているようだ。2016年のオンライン・アートトレード・レポートによれば、アートのオンラインマーケットでの取引は2015年に24%も伸びたという。また、インスタグラムなどのソーシャルメディアを利用したアートの紹介も人気で、作品の購入に大きな影響を及ぼしているとされ、アーティスト、ギャラリー、美術館、オークションハウスの販促ツールとして利用されているとのことだ。タワーズ-パーキンズ氏は、大学を終えたら、「イケアのポスターからは卒業すべき」とし、20代での購入を勧めている。

◆何を基準に選んだらいい?
 ARTmineはアートを購入する際の心得も説いており、芸術作品を買うことは冒険だと感じるかもしれないが、実は価格だけではなく感情的要素を考慮すべきだ、と主張する。見た目の高いクオリティ、独創性、薄っぺらのポスターにはない物理的な厚さ、作品の背景にあるストーリーなどがすべて加わることで、作品との強く感情的なつながりが形成され、それが購入を決めさせると同サイトは説明し、これこそがアートを所有する良さの一つだとする。そして高価な買い物だけに、自分に「語りかけてくれる」作品でなければ、収集しないと決めておくことを提案している。

 タワーズ-パーキンズ氏は、美術館、アートフェアを巡って勉強し、自分の好みを知るためにアート界の人々と関係を作ることを勧めている。また若いコレクターには、自分の好みのものよりもその時流行している作品を求めてしまったり、お金を惜しんで保存状態の悪いものを買ってしまったりすることがないようにと、注意を促している(Yahoo Finance)。

◆大化けもあり。投資としての可能性も
 芸術作品を買うことには、投資としての側面もある。購入した作品が、後日高く評価されることもあるからだ。2013年には、ある日本人男性が所蔵していたポップアート作家、奈良美智氏のコレクション35点が、サザビーズ香港のオークションで、4100万香港ドル(当時約5億1496万円)で競り落とされたという例もある。

 アートの情報サイト『BLOUIN ARTINFO』によれば、元銀行員のこの男性は、1980年代から、まだ世界的な名声を勝ち得る以前の奈良氏の作品の収集を始めた。奈良氏が描く子供のイメージに孤独だった少年時代の自分を重ね、強く共感したことがきっかけだったという。男性は、奈良氏との友情もはぐくみつつ、約18年間にわたり作品を買い続けたが、売却に至るまでの数年間は、作品の価値が自分の手元に置いておくには大きすぎるものになったと感じていた。そして、コレクションは芸術を愛し偉大な作品を見る「目」を持つ収集家に渡すべきだと判断し、奈良氏が男性の二人の娘のために贈り物として制作した1点を除く全作品を、オークションに出すことにしたのだという。

 ちなみに収集を始めたころの奈良作品1枚の価格は、男性いわく「昼ご飯代6ヶ月分」程度だったということだ。推定240万米ドル(当時約2億4000万円)とされていたコレクションが倍の値段で競り落とされた理由は、それまでマーケットに出されたことがなかったこと、そして保存状態が極めて良好だったことが上げられている(BLOUIN ARTINFO)。

 もちろんこのような例は稀だろうが、外れれば紙くずとなる宝くじとは違い、少なくともアートは所有者の目を楽しませてくれる。コツコツ貯めたお小遣いをお気に入りの1作に情熱と夢をかけて投入。これこそまさにお金が生きる使い方なのかもしれない。

Text by 山川 真智子