インドネシア版仮面ライダー、『ドラえもん』超えも!? 玩具ビジネスでは人気故の悩みも

 本郷猛こと仮面ライダー1号が世に現れたのが、1971年。すでに40年以上も時が経っている。そして今、日本国外でもライダーシリーズの新作が製作されていることはご存知だろうか。「仮面ライダーに似せた特撮番組」ではなく、石森プロが政策を手がけた正真正銘の「国外ライダー」である。

 インドネシアのテレビ局RCTIで放映されている『ビマ・サトリア・ガルーダ』がそれである。現地メディア企業MNCと石森プロが共同製作した番組だ。

 インドネシアに限らず、発展途上国における子ども向け番組は主に「輸入」で賄っているのが現状だ。『ドラえもん』や『ポケットモンスター』といった日本のアニメはすでに世界中でその名が知れ渡っている。それ以外にはディズニーやニコロデオンなどの米資本が手がけた番組が、やはり根強い。だが『ビマ』は、その状況を打ち破りつつある。

◆「日尼共作ライダー」の活躍
 現地メディア、カパンラギ・ドットコムの記事は、『ビマ』について「インドネシア市民に好意的に受け止められている。視聴率も好調だ。あの伝説のアニメ『ドラえもん』のそれに肉薄している」と報じる。

 インドネシアでも『ドラえもん』は大人気だ。「ピントゥ・ク・マナ・サジャ(どこでもドア)」、「バリン・バリン・バンブ(タケコプター)」くらいなら、貧しい東部島嶼地域に住んでいる子どもでも知っている。『ドラえもん』はテレビ局関係者にとってはまさにレジェンドと言ってもいい存在で、確実に視聴率を取れる不動のコンテンツでもある。

 そのような巨人に自国製作の番組が視聴率で対抗できるということは、まさに革命的だ。「ドラえもん越え」は世界各国のテレビマンの使命になっていると聞くが、インドネシアはそれを一足早く達成しかけている。

 それだけ大きな存在となった『ビマ』は今、インドネシア各地の施設へ慰問に回る日々を送っているようだ。現地メディアのオーケーゾーンは、主演のクリスティアン・ロホも加わり西ジャワ州の医療施設を訪問したことを伝えている。こうした取り組みは非常に好評で、今後はジャカルタ近郊の都市の施設を中心に慰問を続けるという。

◆正義のヒーローを苦しめるもの
 日尼共作の特撮番組ということで、玩具製造とその販売は日系企業が行っている。

 『ビマ』の関連商品には、必ずバンダイの商標が付く。「仮面ライダーとバンダイ」というタッグは、バンダイ子会社のポピーが変身ベルトを発売してからの伝統であるが、それはインドネシアでも変わらない。

 だが、同国では商品販売に関しての大きな困難がある。偽商品だ。インドネシア市民は(かつての日本人がそうだったように)偽造品に対する罪の意識が薄い。偽物と分かっていても「使用に耐えられればそれでいい」というのが一般的な感覚だ。

 『ビマ』の関連玩具も、市場に多くのコピー商品や海賊版商品が出回っている。

 現地紙シンドニュースは、こうした偽物被害の詳細を伝えている。それによると、通常25〜30万ルピア(約2300~2800円)で売られている正規品のコピーが、3万5000〜5万ルピア(約300~500円)で流通しているというのだ。

 これが成人の消費者ならば、彼らに対して意識啓蒙を行うことは可能だ。だが、子どもにそれができるはずもない。さらにインドネシアでの商品流通は大企業経営のチェーン店舗よりも、個人経営の零細店舗がより重要な役割を担っている側面がある。まさに星の数ほど存在するこうした店舗を取り締まるのは、現実的に不可能だ。

 格安航空会社エアアジアのトニー・フェルナンデスCEOは、かつてワーナーミュージックの幹部だった。だが東南アジア地域での海賊版対策に追われる日々が嫌になり、重役のポストを捨てて退職してしまったという過去を持っている。バンダイと石森プロは、今まさにその問題に直面しているのだ。

 サブカルチャーコンテンツによるインドネシア進出は大きな注目を浴びる事業ではあるが、それは同時に同国特有のリスクを抱えることにもなる。これからの『ビマ』の活躍は、新興国ビジネスの障害を取り除くためのヒントを我々に与えるかもしれないのだ。

Text by NewSphere 編集部