“5万回斬られた男” 初主演『太秦ライムライト』、映画祭最優秀賞受賞で世界が注目

 日本の映画界で50年以上「斬られ役」を演じ続けてきた俳優、福本清三さんに今、世界の注目が集まっている。福本さんが初めて主演した映画『太秦(うずまさ)ライムライト』が、カナダのファンタジア映画祭で、最優秀作品賞となるシュバル・ノワール賞を受賞した。さらに福本さんも、最優秀主演男優賞を受賞した。

 英ガーディアン紙やウォール・ストリート・ジャーナル紙が詳しく報じている。

【5万回以上斬られた男、福本清三】
 福本さんは現在71歳。1960年代・15歳から「斬られ役」として数々の映画に出演、斬られた回数は5万回をこえる。2003年、トム・クルーズが主演する「ラストサムライ」に出演し、海外でも注目されるようになったという。

 福本さんの演技について、ガーディアン紙は「斬られる時の姿勢は『えびぞり』と名付けられ、有名である。背中を弓のようにしならせ、体をねじり、身もだえしながら死ぬ。死ぬ直前には顔がテレビカメラのほうを向く」と紹介している。

 また同紙は、東映剣会の殺陣師・清家三彦氏の「大事な場面では、いつも福本さんに頼む。素晴らしいのは彼の技術よりむしろ、彼の表現力だ。殺陣の場面でいつも作品に価値をふきこんでくれる」との言葉を引用し、福本さんの卓越した演技力を絶賛している。

【太秦ライムライト】
『太秦ライムライト』で、福本さんは年老いた、斬られ役のスタントマンを演じた。妻を失い孤独に生きる斬られ役俳優と、女優志望の一人の若い女性、周囲の人々の人間模様を通し、日本の時代劇を支えてきた人々の姿を描いた。チャップリンの映画『ライムライト』をモチーフにしたものだが、福本さんの人生を主人公・香美山の姿を通し描いたものともいえる。

『太秦ライムライト』で主役を演じることになった時も、福本さんは、最初は断ったという。「フィルムが回り始めると、とても緊張した。自分の目の前で、自分に焦点を当ててカメラ撮影をしたことがなかったので」と、インタビューでも謙虚な姿勢を見せていた(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)。

 また今回の受賞の感想を聞かれても、「まだ信じられない。夢を見ているような気持ちだ」(ガーディアン紙)、「何かの間違いだと思った。受賞の知らせを聞いた時、辞退しようかと思った」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)と、いかにも裏方に徹してきた福本さんらしいコメントを残している。

 なお同映画は、シネマート六本木やT・ジョイ京都などで上映中。Yahoo!映画でのレビュー平均4.64点、映画.comでは4.2点と、観客の評価も非常に高い。

どこかで誰かが見ていてくれる―日本一の斬られ役 福本清三 (集英社文庫) [amazon]

Text by NewSphere 編集部