男女で体を交換できる、その仕組みとは? 可能にしたのは最新VRデバイス「オキュラス・リフト」

 もしも、異性と体を交換できたら――。映画や漫画など、多くの創作物でたびたび取り上げられてきたおなじみのアイディアが、最新のVR(仮想現実)デバイスを利用することで、ついに現実のものとなった。

 この『性別交換実験』は、現在、スペインにおいて、パフォーマンスアート展として公開されているという。主催するのは、“BeAnother Lab”というアーティスト・技術者集団だ。その模様を、「ザ・ヴァージ」、Wired.co.ukなどのニュースサイトが紹介している。

【視覚面で『実験』を支える「オキュラス・リフト」】
 参加する男女は、それぞれ、自分の視界が映るカメラを装着している。その映像は、ヘッドマウント・ディスプレイを通して、相手に伝えられる。参加者が視線を下に向けたとき、見えるのは自分の体ではなく、相手の体だ。

 『実験』において、大きな役割を果たしているのが、3Dヘッドマウント・ディスプレイシステム「オキュラス・リフト」だ。視界を包み込むような、広い視野角での立体視が可能なデバイスである。さらに、ジャイロセンサー、加速度センサーなどを装備しており、ユーザーの姿勢や運動と連動して映像が変化するため、3Dテレビなどでは味わえない、圧倒的な臨場感を味わえる。

【視覚プラス触覚の不思議な効果】
 『実験』の参加者は、これらを付けた状態で、自分のお腹をこすったり、靴を脱いだりと、さまざまな行動をする。ただしその際、相手とシンクロし、同じ動きをすることが求められる、とヴァージは伝える。主催者はこれを、「化身体験」、すなわち、他人の体の中にいるかのような感覚を生じさせる神経科学的手法だ、と解説している。これにより、ある錯覚が誘発される。

 テーブルの上に、自分の腕を置き、その隣にゴムでできた腕を置く。本物の腕は、仕切りによって、自分からは見えないよう隠される。そして、本物の腕とゴムの腕が、同時にブラシでこすられる。しばらくすると、しだいにゴムの腕が自分の腕であるかのように感じられてくる――。これがラバーハンド錯覚と呼ばれるものである。この状態になると、ゴムの腕に触覚や温度覚まで感じられるようになることが、研究によって明らかにされている。視覚と触覚をリンクさせることで、身体感覚を変容させることが可能なのだ。『実験』は、この知見に基づいたものといえよう。

【主催者の狙いは】
 主催者は、参加者がこの『実験』を通じて、性同一性、セクシュアリティ、互いの尊重などについて考えるようになることを目指している、と科学ニュースサイト「インターナショナル・サイエンス・タイムズ」は伝えている。彼らは、『他人になれる機械』という企画で活動しており、今回の『実験』もその一環である。この企画では、「“他人になれる機械”をツールとして用い、異なった社会、文化、イデオロギーを背景とする個人間の共感を促進させる」ことに最大の関心を寄せている、という。

【一般販売に向けて期待の高まるオキュラス・リフト】
 また、同サイトは、今年初頭に開催されたCES、コンシューマー・エレクトロニクス・ショーにおいて、オキュラス・リフトがベスト・オブ・CES賞を受賞したことを報じている。オキュラス・リフトはまだ一般販売されておらず、現在は開発者向けキットだけが入手可能だ。このキットだけで、すでに5万台が販売されたという。一般販売される時期は、今年末か来年初頭だろうと同サイトは述べている。

Text by NewSphere 編集部