フランスのオタクが困惑? パリの「初音ミク」オペラ、現地メディアの評価とは

 作曲家・渋谷慶一郎さんによる、ボーカロイド「初音ミク」を使った初めてのオペラ「The End」がパリ市内シャトレ座で行われた。ボーカロイドとは、ヤマハが開発した歌声合成技術およびその応用ソフトウェアのことで、音符と歌詞を打ち込むと歌声に変換できる仕組みだ。フランスでは、日本の漫画・アニメ好きの層など、局所的にしか知られていない。

 そのため現地メディアは、「ボーカロイドとは何か?」という説明に紙面の大半を割いた。そのうえで、公演にどのような評価をしたのだろうか。

【公演は賛否両論】
 仏ル・モンド紙は今作を、妻を失った後に書かれた(編注:渋谷さんは妻マリアさんを亡くしている)亡き人との、忘れがたくもろい思い出という幽霊のようなものとの、つらい心の対話だと解説した。死、虚無感、そして愛する存在と「コンタクト」し続けようとすることに対する、夢幻的な沈思が心を打つと評し、上演後の力強い拍手がどれだけの観客を魅了したかを表していると伝えた。

 一方で、Otaku(オタク)は、彼らのアイドルが「カワイイ」とは反対の役回りになったことで、少し当惑しただろうとも加えた。

 フランスのカルチャーやトレンドを紹介する情報サイトでも賛否は分かれる。

「トゥットラクルチュール」は同作を下記のように評している。ドラマチックな内容、アリア、レチタティーヴォ、伝統的なオペラに用いられるすべてを見つけられるが、それを越えている。『The End』は未来的で美しいとてもオリジナルな体験だ。それはある種の省察をかき乱し、求める。そしてこのタイプの作品は、すべての観客に好かれるものではないことも明らかだ。

【これまでのミクファンはどう感じたか】
 ル・モンド紙が指摘するように、フランスの初音ミクファンからの反応は良くない。仏サイト「ドウゾドウモ」は、「全員一致で『嫌い』という結果になった」と観劇時の様子を伝えた。ミクのファンは(ペンライトを振るような)コンサート・モードで訪れたが、そのようなものではなく失望した。下手なアニメDVDを見ているか、未来指向のエレクトロ・コンサートを聴いているような印象。良い点は同作が1時間25分と短かったことと評した。

 実際、13日の公演では、途中退席する人も少しいたり、上演後の拍手はあったものの(渋谷さん本人が挨拶に出てからは強くなった)すべての人がしているわけではなく、スタンディングオベーションほどではなかった。

【ミクに注目が行き過ぎた? 】
 各メディアに共通するのは、『The End』の内容そのものよりも、ボーカロイドという目新しさに対する興味が上回っているということだ。

 初音ミクは、今回のイベントのみに用意されたものではなく、日本では多くのユーザーが多くの曲を生み出している「手段」の一つだ。それを使った上でどのような作品ができるかが評価されるべきだが、各メディアでは「初音ミク」が強過ぎて、「渋谷慶一郎」という個性の評価が後手に回った印象を受けた。

Text by NewSphere 編集部