苦境のドイツ自動車産業に構造転換の波 防衛・ロボットに集まる資金
ドイツ・ベルリンの自動車工場の生産ライン(2022年12月)|Media Whale Stock / Shutterstock.com
ドイツの自動車産業は今、深刻な岐路に立っている。自動車需要の低迷や人件費・エネルギーコストの上昇、中国メーカーとの競争激化に加え、巨額の投資を進めてきたEVへの移行が当初の想定より遅れていることなどを背景に、完成車メーカーだけでなく部品サプライヤーにも大規模な雇用削減が広がっている。
◆10万人の雇用が消えたドイツ自動車産業
世界最大級の自動車部品サプライヤーのボッシュは2025年9月、世界の全従業員の約3%にあたる1万3000人を2030年までに追加削減する計画を発表した。同社のモビリティ事業では年間約25億ユーロのコストギャップを抱えており、人員削減を含む複数の施策でこれを縮小する方針だ。
トランスミッションに強いZFグループもドイツ国内で2028年末までに最大1万4000人を削減する計画を進めている。コンチネンタルでも、2024年以降に発表された人員削減計画は計1万150人規模に達する。
ドイツ自動車工業会(VDA)によると、ドイツの自動車産業では2019年以降、すでに約10万人の雇用が失われた。VDAは、現行の規制や事業環境が続けば、2035年までにさらに約12万5000人が減少する可能性があると試算している。
◆自動車部品の技術をドローン・ロボットへ
こうした苦境の中で目立つのが、ドローンや人型ロボットなど新たな成長分野への多角化の動きだ。ボッシュはイギリスのロボットスタートアップ、ヒューマノイドと組み、人型ロボット「HMND 01」を欧州市場向けに製造するほか、将来モデルへのボッシュ製アクチュエーターやドライブ、センサーなどの採用も検討している。
シャフラーもヒューマノイド向け部品を供給し、両社は長期的な供給拡大を計画している。
また、シャフラーはフランスのドローンメーカーとも提携し、ドローンの量産体制構築や部品供給を支援する。フランスに設ける新たな生産ラインでは、2026年11月までにドローンや迎撃機を1日約100機生産できる体制を目指す。同社は宇宙や防衛、人型ロボットなどにも事業領域を広げており、2035年までに人型ロボットや防衛などの新たな成長分野から最大1割の売上を得る目標も掲げている。
ローランド・ベルガーがドイツ、オーストリア、スイスの自動車サプライヤー約200人の経営幹部を対象に実施した調査では、4社に3社が自動車以外への多角化を有望な成長策とみている。約3分の2は防衛分野を有望な新規収益源とみており、自動車産業で培った技術や生産能力を他産業に生かそうとする機運が高まっている。
◆防衛マネーがディープテックに流入
こうした動きの背景には、防衛支出の拡大がある。欧州防衛機関(EDA)によると、欧州連合(EU)加盟27か国の防衛支出は2024年の約3430億ユーロから2025年には4180億ユーロに増加した。安全保障を重視する政策を追い風に、自動車産業の人材や生産能力を防衛分野などに生かそうとする動きも出ている。
スタートアップ市場にも変化が表れている。ドイツのスタートアップへのベンチャー投資は勢いを増しており、現在のペースが続けば、2026年の年間投資額は前年比で約4割増となる見通しだ。ピッチブックは、ディープテックと防衛分野が投資額の伸びをけん引していると分析している。
ミュンヘンを拠点とする防衛テクノロジー企業ヘルシングは7月、評価額180億ドルで18億ドルを調達した。
ドローンなどの無人システムを手がけるクアンタム・システムズも同月、12億ドルのシリーズD資金調達を発表し、評価額は約80億ドルに達した。
人型ロボットを手がけるニューラ・ロボティクスも、最大14億ドルのシリーズC資金調達を発表するなど、防衛・ドローン・ロボティクス関連で大型調達が相次いでいる。
ドイツ有数のスタートアップ拠点であるバイエルン州でも、2025年の新規スタートアップ設立数は785社と前年比46%増加し、過去最高となった。
もっとも、Tier2やTier3を含む中小サプライヤーが実際にどの程度事業転換を進めているのかを示すデータは限られ、自動車産業の苦境がスタートアップの増加に直接つながっていることを示す根拠も現時点では十分ではない。ただ、中堅サプライヤーの多角化志向が強まる一方、防衛・ロボティクスなどへの資金流入が拡大していることは、ドイツの産業構造が変化しつつあることを示している。




