アジア襲うエネルギーショック第2波 各国の防衛策に限界、「財政の時限爆弾」懸念

フィリピンの給油所でバイクに給油する様子(3月19日)|Aaron Favila / AP Photo

 イラン戦争によるエネルギーショックに対し、アジア各国が当初講じた防衛策は限界に近づいている。より深刻な結果をもたらす第2波の影響も出始めた。

 開戦当初、各国政府は、アジア向けエネルギー輸送の重要な動脈であるホルムズ海峡の閉鎖への対応に追われた。企業活動の減速リスクを抱えながら節電を進める一方、肥料生産への影響を承知で家庭向けガスを優先し、一時しのぎとしてエネルギー備蓄を取り崩すなど、各国は難しい対応を迫られた。

 しかし、これらの措置は、戦争が短期間で終わり、エネルギー供給が速やかに再開されるとの前提に基づいていた。その前提は崩れた。

 終結の見通しが立たない中、燃料危機は各国経済に波及している。航空運賃、輸送費、光熱費が上昇し、経済成長を脅かしている。国連開発計画(UNDP)によると、約880万人が貧困に陥るおそれがあり、この紛争によるアジア太平洋地域の経済損失は2990億ドルに上る可能性がある。

 アメリカのシンクタンク、ブルッキングス研究所のサマンサ・グロス氏は「対応する資源が最も乏しい国々や、支払い余力が最も小さい消費者が、あらゆる影響を真っ先に受ける」と述べた。

 アジア各国の政府は、原油価格が1バレルあたり平均70ドル前後で推移すると想定して予算を組んでいた。補助金は燃料価格の安定に役立っていた。しかし、戦争によってブレント原油価格は一時、1バレルあたり約120ドルまで上昇した。

 クアラルンプールを拠点とする独立系エネルギーアナリスト、アフマド・ラフディ・エンドゥット氏は、各国政府はいま、高額な補助金を維持して財政を圧迫するか、補助金を削減してコスト増を消費者に転嫁し、国民の反発を招くリスクを取るかという厳しい選択を迫られていると指摘する。

◆アジア、第2波の影響に警戒
 インドでは、燃料供給を約3億3000万世帯の調理用ガスに振り向ける初期対応をとったことで、肥料工場向けの供給が減った。エルニーニョ現象が発生している年に肥料価格が急騰し、気象学者が少雨を警告していることは、世界最大の米輸出国にとって懸念材料となっている。

 インドはこれまで、14億人の国民を守るため補助金に頼ってきた。しかしナレンドラ・モディ首相は10日、外貨を節約するため、国民に国産品を購入し、海外旅行を控えるよう呼びかけた。また、燃料消費を減らすため、在宅勤務や公共交通機関の利用を促し、農家には肥料の使用量を半減させるよう求めた。

 フィリピンは燃料節約のため、すぐに週4日勤務制へ移行した。貧困世帯を対象にした補助金も導入した。しかしフィッチ・レーティングスは、大半の消費者がなお高いエネルギーコストを負担しており、マニラなどの主要都市で企業活動が減速していると指摘している。

 タイでは、紛争勃発から1カ月もたたないうちに燃料補助金が尽き、軽油価格の上限設定を撤廃した。現在は、予算を抑えつつ原油高に対応するため、他の支出を削減している。

 ベトナムは国内価格への圧力を和らげるため、燃料税の停止措置を延長した。ジェット燃料の不足により、航空便の減便も起きている。観光業はベトナムの国内総生産(GDP、国内で生産された財やサービスの総額)の約8%を占めるため、経済全体に影響が及んでいる。

 ハノイを拠点とするツアーガイド、グエン・マン・タン氏は「今は商売がうまくいっていない。すでに観光客が減っている」と語った。

 燃料不足により、パキスタンやバングラデシュのような資金繰りに苦しむ国々は、長期契約よりも高価で価格変動の大きいことが多いスポット市場で、石油やガスを買わざるを得なくなっている。これにより輸入コストが上昇し、もともと限られている外貨準備にさらに圧力がかかっている。

 クアラルンプールのエンドゥット氏によると、各国政府は福祉など他の優先分野への支出を削減するか、借り入れを増やしてインフレ上昇のリスクを取ることで、高額な燃料補助金を維持できる。一方で、補助金を減らしてコスト増を消費者に転嫁すれば、有権者の反発を招くリスクがある。

 補助金が尽き、インフレが上昇し始めれば、各国はエンドゥット氏が「財政の時限爆弾」と呼ぶ事態に直面する可能性がある。

◆エネルギー危機、アジアで長期化の懸念
 戦争がいずれ終わっても、アジアにすぐに安堵が訪れるわけではない。

 ブルッキングス研究所のグロス氏によると、世界の石油・ガス取引はすぐには回復せず、生産再開にも時間がかかる。損傷したインフラの修復、施設の再稼働、中東から最終市場までの輸送に要する時間を考えると、数週間から数カ月かかる可能性がある。

 専門家によると、欧州もアジアと同様の影響を受けるが、約4週間遅れるという。

 アメリカ全土でもガソリン価格が急騰しており、アメリカ人も痛みを感じている。しかし、コンサルティング会社ユーラシア・グループのヘニング・グロイスタイン氏は、現時点で東南アジアが「最大の打撃を受けている地域」だと述べた。

 グロイスタイン氏は「この燃料不足の状況はさらに悪化するだろう」と語った。

 アフリカでも同様に、エネルギーと輸入コストの上昇が予算を圧迫し、赤字を拡大させ、インフレを押し上げている。戦争はラテンアメリカやカリブ海諸国にも打撃を与えており、経済成長はやや鈍化すると予測されている。

 サプライチェーン・リスク管理会社インテロス・エーアイのテッド・クランツ最高経営責任者(CEO)は、世界のサプライチェーン全体で起きている複雑な混乱が、より広範な影響を及ぼし続けると警告した。

 シンガポールのISEASユソフ・イサク研究所のマリア・モニカ・ウィハルジャ氏は、この危機はアジアで拡大する中間層の脆弱性も浮き彫りにしており、多くの人々が再び貧困に陥るリスクに直面していると指摘した。

 ウィハルジャ氏によると、エネルギーショックは時間をかけて東南アジアの経済を作り替えていく。そこには、雇用市場の変化や、将来のエネルギー危機に各国がどう備えるかといった問題も含まれる。

 各国はすでに、化石燃料の供給元の多様化や、原子力エネルギー、太陽光などの再生可能エネルギーの開発といった長期的な解決策について議論し、実行に移している。

 アジア開発銀行のアルバート・パーク氏は、この戦争によって地政学的リスクが東南アジアの経済見通しの中心に据えられ、地域の成長を直接的に減速させていると述べた。

 パーク氏は「長引けば長引くほど、悪影響は大きくなるだろう」と語った。

By ANTON L. DELGADO and ANIRUDDHA GHOSAL Associated Press

Text by AP