AIデータセンターの電力需要、2030年までに4倍に IEA報告書

humphery / Shutterstock.com

 人工知能(AI)が急速に普及しているが、その運用には、大規模なデータセンターが必要になる。データセンターを稼働するには、大量の電力と水が必要になり、電力や水不足の可能性が以前より指摘されていた。国際エネルギー機関(IEA)が発表した最新の電力需要予測によると、データセンターの電力需要は2030年までに現在の日本の電力消費量を上回るという。

◆2030年までに世界の電力需要倍増
 IEAは4月10日、特別報告書を発表し、データセンターによる世界の電力需要は2030年までに2倍以上に増加し、現在の日本の年間電力消費量をわずかに上回ると予測した。特にAI専用のデータセンターの電力需要は、2030年までに4倍以上になると予測する。

 2022年以降、AIの普及に伴い、大規模データセンターへの世界的な投資が倍増している。AIモデルの訓練と運用に使用されるAIデータセンターは一般的に、大型でエネルギー集約型のGPUチップを使用していることから、大量の電力が必要になる。一般的なAI向けデータセンターの年間電力消費量は10万世帯分に相当しているが、現在建設中の最大規模のデータセンターはその20倍の電力を消費するとみられる。

 データセンターが電力需要の増加に与える影響は国によって異なる。世界全体ではデータセンターが2030年までの電力需要増加に占める割合は約1割だが、先進国においては2割以上を占める。特にアメリカでは半分近く、日本では半分以上を占めると予想する。

◆再生可能エネルギー開発を促進する可能性
 IEAは、今後5年間で世界のデータセンターにおける電力需要の伸びの半分を、再生可能エネルギーがまかなうと予測する。

 報告書は、AIによるエネルギー需要の急増を強調する一方で、AIがエネルギー部門全体の効率性を高め、コストと排出量を削減する可能性についても言及した。一部のデータセンターの電力取引によって、風力や太陽光などのクリーンエネルギーの開発が現在、急速に進んでいると指摘した。

 一方で、AIの急速な成長はエネルギーシステムと環境にとって深刻な問題となる可能性がある。企業が最も入手しやすいエネルギーを求めるようになり、多くの先進国で廃止されつつあったガス火力発電所が延命するためだ。アメリカでは石炭火力発電所の活用を奨励する動きがあり、それによって需要が満たされる可能性がある。(ガーディアン紙

◆電力不足や利用者にマイナスの影響も
 電力会社やデータセンター建設業者がどのようなエネルギーを選択するかによって、大気汚染や温室効果ガスの排出にも大きな影響が及ぶ。

 また、電力会社がデータセンター需要のハイエンド予測に応える発電と送電線を建設しない場合、電力供給が不足し、それによって価格が上昇し、送電網の信頼性が低下するという状況が発生するリスクがある。その反対に、大規模なエネルギー供給への新規投資後にAIブームが下火になった場合、電力会社と利用者は、不要になった電力インフラのツケを払わされることになりかねない。

 研究者たちは、AIブームがどの程度大きくなるのか、また、ハイテク企業が効率化を進めるなかでデータセンターがどの程度の電力を必要になるのかについては、不確実性が高いとしている(ニューズウィーク誌)。

 IEAのファティ・ビロル事務局長は報告書の発表に伴う声明で、「AIの台頭により、エネルギー部門は最も重要な技術革命の最前線にある」「AI はツールであり、それをどう活用するかは私たちの社会、政府、企業にかかっている」と述べた。

 IEAは、AIがエネルギー分野にどのように適用されているかを世界規模で追跡するために、エネルギー、AI、およびデータセンターに関する観測所を間もなく立ち上げる予定であると述べた。

Text by 中沢弘子