ツアー取れない? 人気沸騰の日本旅行 対応に追われる観光業界
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世界各地の人気観光地でクローズアップされているオーバーツーリズム。その波は日本にも訪れ、一部の人気観光地に外国人観光客が押し寄せ、観光都市は対応に頭を悩ませている。2025年も記録的観光客数が予想されるなか、宿泊税値上げ、人数制限、通行禁止など対策が相次いで打ち出されているが、果たしてその効果は……。
◆花見シーズンツアー26年まで完売も
2024年の訪日外国人数は前年比47.1%増の3686万9900人で、新型コロナ流行前の19年の3190万人を超え、過去最多となった。2025年までにコロナ前の観光レベルを回復させるという政府の目標を1年前倒しで達成。今年はさらに増加するとみられている。
毎年、桜の季節には何百万人もの旅行者が来日し、京都の寺院や東京の公園で花見を楽しむ。2023年3月と4月にそれぞれ180万人と190万人の観光客が訪れた。2024年には月間300万人を大きく上回った。
あまりの人気ぶりに、米誌ロブ・レポートによると、ある引退した弁護士がネットでガイドツアーを予約しようとしたところ、2026年までのツアーは完売していたという。
イギリス・ロンドンの高級旅行会社ブラック・トマトは日本の提携会社から、契約するトップガイドのほぼ全員がすでにこの期間予定が埋まっているため、ほかの日程であれば対応が可能と連絡を受けた。同社では、日本は現在非常に人気なため、数ヶ月前から計画を立てることを勧めている。同社のPR責任者であるブレンダン・ドレウニアニー氏は、すでに2025年秋の予約を開始したと言う。(同)
地元旅行会社が早くからトップガイドを確保しているため、桜の季節になると一部の代理店は窮地に立たされる。ある代理店のCEOは「日本には現在、十分なトップガイドがいない」と言う(同)。
◆各地で起きる外国人観光客をめぐるトラブル
京都や大阪といった「ゴールデンルート」の都市は過密状態に苦しんでいる。以前はこういった現象はどちらかというとヨーロッパのものだった。豪紙シドニー・モーニングヘラルドによると、べネチア、アムステルダム、プラハ、ドゥブロヴニクといった都市が最も影響を受けてきた。現在この問題はほかの大陸にも広がり、京都のような都市はもう限界点に達しているようだと同紙は述べる。
増加する外国人観光客をめぐる問題は日本でも目立ち始めた。昨年10月には、チリ人女性が日本の神社の鳥居で懸垂している動画をインスタグラムに投稿し、批判が殺到。また、昨年初めには、富士河口湖の住民が富士山の写真を撮影しようとした観光客のポイ捨てやコンビニの横の道路へのはみ出しに不満を抱き、自治体は7月、富士山の眺望を遮る板を設置した。
山形の銀山温泉でも、人気の撮影スポットでの口論、地元住民への暴言、救急隊が救急車を捨てて徒歩で駆けつけなければならないほどの混雑が起きている。
◆進むオーバーツーリズム対策
オーバーツーリズムの問題を受け、人気の高い神社やリゾート地、都市を訪れる外国人により高い料金を課すことも対策の一つとして検討されている。
このような税金は地方自治体によって決定され、多くの地方自治体が宿泊税や入湯税の値上げを決定している。姫路市長は昨年、外国人観光客に対する姫路城の入場料の値上げを提案し、全国的な議論を巻き起こした。
銀山温泉は、3月末まで午後5時以降の日帰り入浴客数の制限をしている。午後5時から8時の間、観光客は100人しか町に入れず、温泉街の入場に事前にチケットの購入を義務付けた。日帰り入浴客は温泉から離れた指定場所に駐車し、シャトルバスに乗る必要がある。
京都の祇園では昨年3月、私道への観光客の立ち入りが禁止された。富士登山道も7月より有料化した。
京都市はオーバーツーリズムの深刻な問題を緩和するため、観光客の数を削減する措置として、宿泊税を大幅に引き上げる予定だ。新提案では、宿泊税の上限額をこれまでの1泊1000円から、1万円に引き上げる。条例の改正案は2月の市議会で審議され、可決されて国から許可が出れば2026年3月から施行される。
一部の専門家は、宿泊税が高くなることで、観光客は近隣の都市に滞在し、京都への日帰り旅行をするようになる可能性があると指摘する。
◆政府「旅のエチケットガイド」発表
観光庁は、観光客の急激な流入が問題になっていることを認識している。同庁の担当者は英紙インデペンデントに対し、政府は2030年までに年間6000万人の外国人観光客を受け入れるという目標を掲げているが、これは外国人観光客を地理的に、また閑散期を含む年間を通して分散させることができなければ実現不可能だと指摘する。「東京や京都、大阪のような場所以外の地方に観光客を呼び込むことが重要になる」と言う。
このような問題を受け、観光庁は昨年、外国人旅行者をはじめとする観光客向けに、旅のエチケットに関する7項目のガイドを発表し、旅行前に現地の文化や習慣について学びマナーを守ることや、寺院や神社などの文化財を大切に扱うことなどを求めた。
インデペンデント紙は、このガイドは近いうちに、日本行きの飛行機内で安全ビデオと並んで表示されるようになるかもしれないとする。
シドニーヘラルド紙は、「責任ある観光」という色気のないメッセージを、正しいかどうかは別として、旅行を特権ではなく権利と考えている豊かな先進国の何億人もの人々に伝えるのは難しいと伝えている。
◆伝統的な祭りも外国人客目当て
地方では外国人観光客向けに伝統的な祭りを観覧できる特別席を設ける動きが活発になっているが、一方では伝統文化に与える影響について議論が沸騰している。
青森県の「青森ねぶた祭」の主催者は2022年より、観光客向けに最大8名まで利用できるVIPボックス席を100万円で販売したところ、強い反響があった。2024年には110万円に値上げした。徳島県の阿波踊りは2023年、1人20万円のプレミアムチケットを発売した。
京都の祇園祭も2023年にこの流れに乗り、外国人観光客を対象にした、山鉾巡行の「プレミアム観覧席」を1席40万円(酒と食事付き)で販売。しかし翌年、伝統的な儀式を尊重するべきという声が出て、最終的に観覧席ではソフトドリンクのみを提供することになった。
◆外国人客の不満は「混雑」
最近の調査によると、日本でオーバーツーリズムの問題を経験した外国人観光客は3割を超え、観光地でのトラブルで最も多かった。これに対し、混雑を緩和し資源保護に貢献するためなら高い料金を払ってもよいと回答したのは63%だった。
円安によって外国人にとって訪日観光がより手頃になっており、今年もまた記録を更新することが予想される。オーバーツーリズムに関連する問題は、改善される前に悪化する可能性が高いというのが現実だ。