外国人を失う中国、懸念されるダメージ

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 少し前までの中国は、中国語を学ぶ学生から広大な市場での成功を目指すビジネスマンまで、外国人にとって活気あふれる場所だった。ところがそういった時代は終わりを迎え、中国に住む外国人の数は大幅に減少している。世界とのつながりが薄れれば多様性を失い、中国の今後の発展にも影響が出ると見られている。

◆減少顕著 コロナ後、外国人戻らず
 公式の統計によれば、2021年の中国における外国人コミュニティのトップ3は韓国人、アメリカ人、ベトナム人だったが、いずれも減少している。2023年の韓国人の登録人口は2019年から30%も減少。同様に日本人コミュニティも13%減少し、イギリス人もパンデミック前の水準の半分以下になった。(ウォール・ストリート・ジャーナル

 現在の人口流出の影響を最も受けているのは北京、上海といった巨大都市だという。シンガポールのテレビ局CANによれば、新型コロナのパンデミックで上海を離れた多くの外国人が戻ってきておらず、2024年の外国人の数は、2018年の半分近くになったという。香港のサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙(SCMP)によれば、北京に長期滞在・就労する外国人は、10年間で40%減少しているという。

◆魅力が低下 外国人に厳しい環境
 駐在員など外国人居住者が姿を消す背景には、給与や為替、コストや大気汚染などといった現実的な要因があり、これが中国の魅力の低下につながっているとSCMPは述べる。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのアンソニー・クロッツ教授は、パンデミックに伴い人々の仕事への考え方が変化したと指摘しているが、これも駐在員の中国離れが加速した理由だとしている。

 さらに新型コロナの流行は、外国人に中国への渡航や居住を躊躇(ちゅうちょ)させる上で極めて大きな影響を及ぼした。渡航制限、厳重なロックダウンなどが行われ、これにより多くの外国人が中国での将来を考え直すことになったとSCMPは説明している。

 新型コロナ以外にも、中国の自己完結的キャッシュレス社会や、グレート・ファイヤーウォールと呼ばれる中国のネット検閲システムが外国人にとって高いハードルになっているという指摘もある。

◆国内調達で補填 多様性なしではイノベーション困難
 新型コロナの封鎖期間中に外国人従業員が減ったため、中国企業は現地雇用や海外スタッフのリモートワークを利用するようになり、人材の現地化が進んだ。また現地の外国企業は、高コストの駐在員の代わりに、多言語を操る中国人を雇うようになっているという。

 さらに、西側諸国とのデカップリングや、国家安全保障を重視する動きが、現地の外国人に大きな影響を及ぼしている。中国でのキャリアを希望する外国人留学生にとっては、戦略上重要な分野における外国人への規制強化、ビジネス環境における国有化が直接影響を与えている。

 中国から高い知識やスキルを持つ外国人が消えて行くことは、中国のイノベーションにも影響があるかもしれないとSCMPは述べる。米社会学者、マーク・グラノヴェッターは、「弱い紐帯の強み」理論で、「異なる生活圏・仕事圏でつながっている人の持つ情報や視点が有益な情報や視点をもたらす」と説明。弱い絆で結ばれた人々(外国人)がいなくなれば、同じようなアイデアを共有する強い絆で結ばれている人々(中国人)からアイデアの多様性が失われ、最悪の場合、集団思考に陥ってしまうとする。

 一方、中国政府は一部のビザ免除政策の導入や、外国人向けのモバイル決済システムのアクセス向上など、中国の魅力を回復するための取り組みも進めている。外国人の中国で果たす役割の大きさを指摘する中国情報サイト『ザ・ワイヤー』は、中国政府は多様性を受け入れ、個人の権利を保護し、開かれた対話を促進する環境を育成しなければならないとしている。

Text by 山川 真智子