なぜ米国のPEファンドは技術職企業を買収しているのか? 中小の経営者がミリオネアに

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 アメリカでは、プライベート・エクイティ(PE=非上場株)ファンドが暖房・換気・空調(HVAC)、配管、電気などの修理・工事を行う会社に対して積極的に投資を仕掛けている。その狙いとは。

◆2022年以降、800社を買収
 ウォールストリート・ジャーナルは、PEファンドが昨今、空調・配管工事事業などといった技術職の業界に積極参入していることを報じる。同紙が引用する、ベンチャーキャピタル(VC)、PE、M&A(企業合併・買収)のデータベースを提供するピッチブック社のデータによれば、2022年以降、PEファンドが買収した技術職業界の企業は800社以上だという。

 空調・配管工事事業者は従来、家族経営のような中小企業が中心的な存在であった。PEファンドには、買収・合併という形で事業を大きくすることで、小規模事業者に対しての競争力を高め、オペレーションの効率化を図ることで、より収益性の高い事業を運営するという狙いがある。同時に、従来の企業の経営者は事業を売却することで、一夜にしてミリオネアになるのだ。具体的な売却価格は明らかにはされていないが、数百万ドル、あるいは数千万ドルになることもあるという。

◆年商が倍以上になったケースも
 ウォールストリート・ジャーナルの取材によれば、ライトウェイ(Rite Way)社はPEが所有するグループ会社の傘下になったことで、年商が3000万ドルから7000万ドル近くにまで跳ね上がったという。また、ライトウェイと合併したまた別の会社の元経営者は会社にはとどまったものの、7年後には50歳で早期退職して、釣りなど好きなことを楽しむ予定だと語っている。

 この事例は、いわゆるホワイトカラーといわれるPEファンド業界と、ブルーカラーを代表するような技術職業界の間でのウィンウィン関係のようにも見えなくはない。しかし、フォーブスの記事は、潜在的なマイナス面についても指摘する。たとえば、PEファンドが参入することによって、現場の経営判断が見過ごされ、財務リターンが最優先されるといったようなリスクがある。また、目先の経費削減が優先されることで、サービス品質が低下したり、従業員が解雇や労働環境悪化のリスクを負ったりする可能性もある。

 実際のサービスを受ける一般家庭の消費者にとって、効率が良く標準化されたサービスを受けられるという点はメリットかもしれない。一方、買収・合併により競合が減ることで価格が上昇したり、効率化によってサービス品質が低下したりするデメリットも考えられる。

 パンデミックをきっかけにその価値が見直されつつある空調・配管工事事業。ブルーカラー業界からミリオネアへの転身が、これからの時代のアメリカンドリームなのかもしれない。

Text by MAKI NAKATA