オシャレ食材として注目される魚の缶詰 TikTokが人気を後押し

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◆「魚缶ディナーのおうちデート」の仕掛人
 おしゃれな魚缶や、貝などのシーフード缶詰の人気を後押ししたのが、ティックトックなどで広まった「魚缶ディナーのおうちデート(Tin Fish Date Night)」のコンセプトだ。このコンテンツの仕掛人はサンフランシスコ在住のアリ・フーク。彼女は10年ほどレストランで働いた経験があるプロのシェフだが、現在は料理関連のコンテンツを配信するコンテンツ・クリエイターの肩書きを持つ。

 彼女のブログによると、魚缶ディナーは初めての子供が生まれてからの数ヶ月、赤ちゃんを寝かしつけることが難しく苦労していた時に生まれたアイディアだという。ある夜、なんとか赤ちゃんを寝かしつけて、家にあった魚の缶詰と、自然派ワインのボトルを開けて、オリーブオイルをつけてグリルしたパンで、簡単なディナーを準備したところ、これが思いのほか良いことに気がついた。そして、その日からほぼ毎週金曜日は、特別な魚缶とワインを用意して、夫とともに自宅で魚缶ディナーデートを楽しむことが習慣になったという。

 魚缶やおつまみなどをボードにおしゃれに配置するフークのティックトックビデオは人気のコンテンツとなった。彼女の魚缶デート初回エピソードはティックトック上で2万回近く再生されており、なかには200万回再生されているビデオもある。魚缶のコンテンツで成功したフークは、自らがキュレーションした魚缶ディナーセットの販売なども行っている。事前予約で販売されたギフトセットは、彼女がセレクトした異なるブランドの魚缶が5缶入りで75ドル(約9600円)という価格で販売されていたようだが、現在は売り切れだ。

 魚缶という安価で地味なイメージがあった食材が、ブランディングやインフルエンサーの創造性によってハイエンドでオシャレなものに変わるというのは興味深い事例である。ソーシャルメディアやインフルエンサーの力で、食のトレンドはますますダイナミックなものになりそうだ。また、今後、これまで日の目を浴びることのなかった食文化や食材に注目が集まるという可能性にも期待したい。

Text by MAKI NAKATA