自分の預金おろすための「銀行強盗」頻発 レバノン襲う未曾有の経済危機

襲撃のあったビブロス銀行の支店(レバノン・ティルス、10月4日)|Mohammed Zaatari / AP Photo

◆預金を引き出す究極の手段が強盗
 このような状況を受け、銀行は預金、とくに外貨預金の引き出しに厳しい制限をかけた。I24News(9/23)によると、預金を3000ドル引き出すのに、8年半もかかるといった具合だ。

 そのため、身内の大病などで、まとまった金額が必要な市井の人々が、やむにやまれず銀行強盗という手段に走る例が増えた。父親の病気が理由で8月11日に銀行に6時間立てこもった42歳の男性は、自身の預金20万ユーロ相当のうち3万ユーロ(約440万円)の引き出しに成功した。28歳女性は、妹のがんの治療に、2週ごとに5万ドルが必要となった。最初は銀行に掛け合ったが200ドルしか渡せないと言われ、銀行襲撃を決意。結果、約1万2500ドル(約182万円)引き出すことに成功した。(フランス・アンフォ、9/17)

 レバノン内相は、このような行為は、残りの預金を引き出す権利を失くす可能性があると警告したが、民衆の多くは銀行強盗に走る人々に理解を示す。「彼らのお金だから、彼らの権利だ」「自分のお金を引き出して何が悪いのか。誰にも怪我させていないのだから」といった具合だ。(同上)

◆破綻した国の立て直しは可能か?
 移住を希望しても高額な航空券には手が出ないため、違法ボートで地中海に乗り出す人は後を絶たない。2020年には1500人以上が船での脱出を図ったと見られるが、75%は当局に阻止され、成功した人はわずかだ。また、今年4月には84人の移民を乗せたボートの沈没事件が起きるなど、危険も大きい。

 手がつけられないほど悲惨なレバノンの経済状況だが、これを立て直すにはレバノン政府の抜本的な改革が不可欠だ。しかし、いまだその一歩を踏み出す動きは見られない。

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Text by 冠ゆき